魚の三枚おろしは三徳包丁で足りる境界線と出刃が必要な魚種

三徳包丁と魚のある静物。まな板の上に置かれた包丁と鯵 包丁の選び方

静岡で料理歴15年のコウスケです。スーパーの鮮魚コーナーで丸ごとの魚を手に取っては、結局切り身を買って帰る。そんな時期が私にもありました。理由ははっきりしていて、家に出刃包丁がなかったからです。

魚をさばく解説を読むと、たいてい最初に「出刃包丁を用意しましょう」と書いてあります。でも包丁を1本買い足すというのは、置き場所も研ぐ手間も増えるということで、まだ一度も魚をおろしたことがない人にとってはそれなりの決断です。

そこで気になるのが、手元にある三徳包丁でどこまでやれるのか。ここを曖昧なまま「小型魚ならできます」と言われても、じゃあ自分が今日買ってきたこの魚は小型なのか、という肝心のところが分かりません。この記事では、魚の全長と包丁の刃渡り、それに中骨の太さという二つのものさしで、その境界に線を引いてみます。

  • 三徳包丁で三枚おろしが破綻するのは「刃渡りより魚が長くなったとき」と「中骨が太くなったとき」の二段階
  • 刃渡り18cmの三徳なら、鯵や小鯖のような魚は道具の性能の範囲内で片づく
  • 頭を落とす工程だけを避ければ、三徳の守備範囲は思っているより広い
  • 出刃が本当に必要になるのは、力任せに骨を断つ場面が出てきてから
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魚の三枚おろしを三徳包丁でやる前に知る境界

「三徳包丁でもできます」「いや出刃がないと無理です」。どちらの答えも見かけますが、両方とも正しくて、分かれ目は魚のサイズにあります。ここでは手順の話に入る前に、自分の持っている包丁がどこまで届くのかを判断できるようにしておきます。判断の材料は特別なものではなく、刃渡りと魚の全長、そして背骨の太さです。

三枚おろし 包丁 種類で何が違うか

魚をさばく包丁として名前が挙がるのは、出刃・柳刃・小出刃・身卸し・舟行あたりです。数が多くて混乱しますが、違いは「刃の厚み」と「刃渡り」の二つで、ほぼ説明がついてしまいます。

出刃包丁は刃が分厚く、峰から刃先に向かって重い三角形の断面をしています。この厚みは切れ味のためではなく、骨に当たったときに刃が横へ逃げないようにするためのものです。厚い刃はくさびとして働くので、骨に当てて体重を乗せると骨が左右に押し割られていきます。柳刃はその逆で、細長くて薄く、身をなめらかに引き切ることに全振りしています。骨に当てる想定がないので、当てれば当然欠けます。

では三徳包丁はどこに位置するかというと、薄さでいえば柳刃寄りです。野菜を押し切ることを前提に設計されているので、刃元から刃先まで厚みの変化が小さく、まな板に対してまっすぐ下ろす動きが得意です。つまり三徳は「切る」ことは得意でも「割る」ことは想定していない、というのが種類の違いの本質になります。

刃の厚みは、包丁を上から見ずに背中側から覗くとよく分かります。出刃は峰の部分が明らかにぼってりしていて、三徳は板のように薄い。この見た目の差が、そのまま骨に対する強さの差です。

三枚おろしという作業を分解すると、ウロコを引く、頭を落とす、腹を開いて内臓を出す、中骨に沿って身を外す、という四つになります。このうち三徳包丁が苦手なのは頭を落とす工程だけで、残り三つはむしろ薄い刃のほうが有利です。中骨の上を滑らせて身を剥がしていく作業は、刃が薄いほど骨に残る身が減ります。

種類の話が「どれを買うか」ではなく「どの工程で何が起きるか」に翻訳できると、手持ちの1本で足りるかどうかを自分で判断できるようになります。買い足すかどうかは、そのあとで決めても遅くありません。ちなみに出刃が本当に必要かという話そのものは、出刃包丁はいらないのかを考えた記事のほうで道具論として掘り下げています。

三枚おろし 包丁 角度は寝かせる

三枚おろしで包丁を入れる角度は、工程ごとに変わります。ここを一定にしようとすると、どこかで必ず引っかかります。

まず中骨に沿って身を外すとき、刃はまな板と平行に近いくらい寝かせます。イメージとしては、背骨の上面を刃の腹でなでるような角度です。この角度が起きていると、刃先が骨の間に潜り込んで止まります。止まったところで力を足すと、今度は刃が骨をかわして身のほうへ逃げ、切り口が階段状になります。三枚おろしが下手に見える原因のほとんどが、この「角度が起きている」状態です。

一方で腹を開くときは、逆に刃先だけを使って浅く立てます。深く入れると内臓を傷つけて生臭さが身に移るので、皮一枚を裂くつもりで先端を走らせます。同じ包丁でも、寝かせる場面と立てる場面がはっきり分かれているわけです。

三徳包丁で角度を作るときに一つ厄介なのが、刃の反りです。三徳は刃先に向かってゆるく反り上がっているので、刃元を寝かせると刃先が浮きます。まな板の上で野菜を刻むときは前後に押し引きしてこの反りを使いますが、魚の中骨に沿わせる場面では刃先の浮きが邪魔になります。対策は単純で、刃の中ほどから刃元寄りを主に使い、刃先は最後に軽く抜くだけにすることです。

角度が合っているかどうかは、切ったあとの中骨を見れば分かります。骨に身がべったり残っていれば刃が寝かせ足りていないか、逆に骨を削ってしまっていれば寝かせすぎです。半透明に骨が透けて見える程度が、ちょうどいい着地点になります。

そしてこの角度の話は、切れ味が落ちた包丁では成立しません。寝かせた刃は身に対して斜めに当たるので、鋭さがないと入らずに滑ります。滑った刃はそのまま指のほうへ来るので、危険という意味でも研いでおく価値があります。切れ味が落ちる原因については別の記事でまとめてありますが、魚をさばく前日に一度砥石を当てておくだけでも、当日の手応えがまるで変わります。

三徳包丁を中骨に沿って寝かせて入れる角度のイメージ

三枚おろし 包丁の入れ方の順番

包丁の入れ方には順番があり、この順番を守るだけで難易度が一段下がります。よく紹介されるのは、背から入れて、腹から入れて、最後に中骨から離す、という三段階です。

背側から入れるのは、背ビレの根元が身を支えてくれて刃が安定するからです。ここで一気に中骨まで到達させようとせず、浅い切り込みを三回ほどに分けて深くしていきます。一回目は皮と身の境目を割るだけ、二回目で身の半分、三回目で中骨の上に到達する。この分割が身崩れを防ぎます。

次に腹側ですが、腹は内臓を取ったあとで空洞になっているため、背側より身が薄く柔らかい。ここを勢いよく切ると刃が抜けて腹骨をまとめて切り落としてしまい、あとで腹骨をすく余白がなくなります。腹側は背側よりさらに慎重に、刃を寝かせたまま浅く進めます。

最後に、背と腹の両方から中骨の上まで刃が届いた状態にしてから、尾のほうを軽く持ち上げて一気に身を送り出します。このとき刃を上下に細かく動かすほど切り口はギザギザになるので、包丁は前後に長く一往復させるつもりで使います。ここが刃渡りの話につながってくる部分です。

頭を落とす工程だけは、三徳包丁で無理をしないでください。胸ビレの後ろには背骨と頭骨の関節があり、ここを外さずに骨を真横から断とうとすると刃が欠けます。関節に刃先を差し込んで角度を探る、あるいはキッチンばさみで断つ。この二つのどちらかにしておくのが安全です。

順番を守っていても、途中で刃が進まなくなることがあります。そのときは力を足すのではなく、一度刃を抜いて入れ直します。進まないのは骨に当たっているか、切り込みの延長線からずれているかのどちらかで、どちらも力では解決しません。抜いて、切り口を目で確かめて、同じ線に戻す。これを繰り返すほうが結果的に速く終わります。

大名おろしなら三徳でも通る

大名おろしは、中骨に身が多少ついてしまうのを承知で、頭側から尾に向かって一気に身を外す方法です。

この方法が三徳包丁と相性がいいのは、包丁を何度も往復させないからです。刃を寝かせて中骨に乗せたら、あとは一方向に送るだけ。刃の出入りが減れば、その分だけ身が崩れる機会も減ります。背から入れて腹から入れて、という二段階の位置合わせも不要になるので、初めての一尾を大名おろしから始めるのは合理的な選択です。

ただし条件があって、大名おろしは身の薄い魚に向いています。鯵や鰯のように背が薄い魚なら、中骨の上を一度なでるだけで身が離れます。逆に鯛のように身が厚く弾力のある魚を大名おろしにしようとすると、刃が身の途中で行き場を失い、中骨の下へ潜ったり上へ抜けたりして、結局きれいに外れません。

もう一つ、大名おろしは刃渡りが物を言います。頭側から尾まで一往復で送るので、刃渡りが魚の半身の長さに足りないと、途中で刃を戻すことになる。戻した瞬間に切り口の線がずれて、そこが段差として残ります。刃渡り18cmの三徳であれば、頭を落としたあとの胴が刃渡りに収まる魚、つまり全長25cm前後までの鯵や小鯖なら、一往復で送りきれる見当がつきます。

大名おろしで中骨に残った身は、捨てずにあら汁や骨せんべいに回せます。歩留まりの悪さは家庭ならほとんど問題になりません。「きれいにおろす」より「まず一尾おろしきる」ほうが、次につながります。

私自身、最初に鯵をおろしたときは三枚おろしの手順どおりにやろうとして、中骨をぼろぼろにしました。大名おろしに切り替えたら、同じ包丁のまま急に形になった。技術が足りないときは、道具を変える前にやり方を変えるほうが早いことがあります。

鯵 三枚おろし 包丁は三徳で十分

鯵は三徳包丁の守備範囲の中心にいる魚です。スーパーで並んでいる真鯵はおおむね全長20cmから25cm程度のものが多く、この長さは刃渡り16cmから18cmの三徳で扱える範囲に収まります。

鯵で唯一つまずきやすいのがゼイゴです。尾の付け根から側面に沿って伸びている硬いウロコの列で、ここに刃を垂直に当てると弾かれます。ゼイゴは削ぐものなので、尾側から刃を寝かせて差し込み、小刻みに前後させながら頭方向へ薄く剥がしていきます。厚く削ぐと身がごっそり持っていかれるので、皮の下をくぐらせるくらいのつもりで。

頭を落とす工程も、鯵なら三徳で対応できます。胸ビレの後ろに斜めに刃を入れると、背骨の関節にすっと当たる感触があるはずです。硬い手応えがしたらそこは関節ではないので、力を入れずに一度抜いて位置をずらします。関節に当たっていれば、押し込む力ではなく軽く手首をひねるだけで頭が外れます。この「ひねって外す」感覚が身につくと、扱える魚の範囲が一気に広がります。

内臓を出したあとは、腹の中の血合いを指と流水で洗い落とします。ここが残ると、どれだけきれいにおろしても生臭さが最後まで残る。私は歯ブラシを一本この用途に使っていて、背骨に沿った黒い筋をこすり落としています。おろす技術そのものより、この洗いのほうが仕上がりの味に効いている実感があります。

洗ったあとの水気を拭き取るのも同じくらい大事です。まな板に水が残っていると身が滑って、刃を入れる線がずれます。魚を一尾おろす間に、私はキッチンペーパーを何枚か使ってまな板を拭き直しています。地味ですが、切り口の精度がはっきり変わる工程です。

鯵が三徳の守備範囲に収まる理由をあらためて整理すると、背骨が細くて関節で外せること、身が薄くて刃の通り道が短いこと、そして胴の長さが刃渡りに収まることの三点になります。この三つが揃っているので、薄い刃でも押す動きに変わらず、最後まで切る動きのまま通せる。スーパーで数尾セットで売られていることが多いのも、練習台としては都合がいいところです。一尾目で失敗しても、二尾目で修正できます。

鯛 三枚おろし 包丁で線が引かれる

三徳包丁の限界がはっきり見えるのが鯛です。ここが今回いちばん書きたかった境界線にあたります。

鯛が難しい理由は三つあります。まずウロコが硬くて大きく、包丁でこそげようとすると刃先が傷みます。次に身に弾力があり、中骨の上に刃を寝かせても身が押し返してくるので、一度で切り進められません。そして頭骨と背骨が太い。この三つ目が決定的です。

骨の太さがなぜ効くかというと、薄い刃には骨を割る能力がないからです。出刃の厚い刃は骨に食い込みながら左右へ押し広げますが、三徳の薄い刃は骨の表面で止まって、そこから先は横滑りするしかありません。滑った刃は身のどこかへ抜けていくか、骨に当たった一点に力が集中して刃が欠けます。これは技術で乗り越えられる話ではなく、断面形状の差です。

鯛クラスの魚を三徳包丁で頭から断とうとするのは避けたほうが賢明です。刃が欠けるだけならまだしも、骨に弾かれた包丁が思わぬ方向へ抜けます。頭を落としたいなら、出刃を借りるか、鮮魚売り場で頭だけ落としてもらうという手が使えます。

逆に言えば、頭を落とす工程を外に出してしまえば、鯛でも三徳で身を外すこと自体はできます。ウロコ取りは専用のウロコ引きかペットボトルのキャップに任せ、頭は落としてもらった状態で持ち帰る。そこから先の腹を開く、中骨に沿って身を外すという工程は、薄い刃の得意分野です。この分業を知っているかどうかで、家で扱える魚の幅がずいぶん変わります。

境界を言葉にすると、こうなります。刃を当てて「切れていく」感触があるうちは三徳の範囲内で、「止まって押している」感触に変わったらそこが境界です。骨に当たったときの手応えが、切るではなく叩くに近づいたら、その魚は出刃の領分だと考えてください。全長や重さの数字より、この手応えのほうがよほど確実な判断材料になります。

魚の三枚おろしを三徳包丁で仕上げる道具選び

境界が分かったところで、次は手持ちの1本をどう選ぶか、どう使い切るかという話に移ります。同じ三徳でも刃渡りが違えば通用する魚のサイズが変わりますし、おろしたあとに刺身にするのかフライにするのかでも、必要になる仕上げが変わってきます。

太刀魚 三枚おろし 包丁は例外扱い

太刀魚は面白い例外です。全長は1mを超えることもあり、数字だけ見れば完全に大型魚に分類されます。それなのに、三徳包丁でおろせてしまう。

理由は体型にあります。太刀魚は名前のとおり平べったいリボンのような形をしていて、断面が薄い。背骨は通っていますが、鯛のような太い骨ではなく、身の厚みもごく薄いので、刃が身を通り抜けるまでの距離が短く済みます。つまり境界を決めているのは魚の全長ではなく、刃が越えなければならない身と骨の厚みだということが、太刀魚を見るとよく分かります。

ただし太刀魚には別の難しさがあります。長いので、まな板に一尾が乗りません。実際には最初に何等分かに切り分けてから、扱いやすい長さの筒にしておろしていくことになります。この切り分けの段階では背骨を横断することになるので、ここだけは骨の位置を狙って刃を入れます。背骨の節と節の間を狙うと、力をかけずに落ちます。

もう一つ、太刀魚の銀色の皮は指でこするだけではがれてしまうほど弱く、こすると簡単に剥げてしまいます。この銀は洗い落とすものではなく、そのまま食べる部分です。水で流すときは指でこすらず、まな板の上を転がすときも布巾でくるむようにすると残ります。刃を入れる前の扱いのほうが、仕上がりを左右する魚です。

太刀魚のように「長いけれど薄い」魚と、鯛のように「短いけれど厚い」魚。どちらが三徳包丁にとって手強いかと言えば、迷わず後者です。判断は長さではなく厚みと骨で行う、と覚えておくと迷いません。

この例外を知っておくと、店先で魚を選ぶときの基準が変わります。丸ごとの魚を前にしたとき、私は全長よりも先に、上から見た厚みと背骨の太さを見るようになりました。薄くて骨が細ければ、たいてい家の三徳で片づきます。

刃渡りの異なる三徳包丁を並べて長さを比べた様子

魚 三枚おろし 包丁 おすすめの1本

三徳を1本だけ持つなら、私は刃渡り18cmを勧めます。理由は魚に限った話で、ここまで書いてきたとおり、中骨に沿って身を送るときに刃渡りが半身の長さを上回っていると一往復で通せるからです。刃渡りが足りないと途中で刃を戻すことになり、その継ぎ目が切り口に段差として残ります。

その意味で選びやすいのが、ミソノのモリブデン鋼 三徳庖丁 No.581(18cm)です。モリブデン鋼はステンレス系なので、魚の水分や血に触れたあとに多少乾かし忘れても、鋼のようにすぐ錆が出ることはありません。魚をさばくと後片付けが長引きがちなので、この気楽さは実用面でかなり効きます。

ミソノ モリブデン鋼 三徳庖丁 No.581 18cm
刃渡り18cmの両刃。ステンレス系のモリブデン鋼で、使用後の手入れが比較的楽です。全長20cm台の魚を一往復で送れる長さがあるので、鯵や小鯖クラスの三枚おろしを1本でまかないたい人に向きます。
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ただし、18cmが誰にとっても正解というわけではありません。刃渡りが長いほど手元のコントロールは難しくなりますし、まな板が小さいと持て余します。普段の料理が野菜中心で、魚は年に数回という人なら、取り回しのいい16cmや17cmのほうが日常の満足度は高いはずです。この記事は魚を軸に書いているので18cmを推していますが、包丁は魚のためだけに持つものではありません。

両刃か片刃かという点についても触れておくと、三徳は基本的に両刃です。両刃は刃が左右対称に研がれているので、左右どちらの手でも同じように使え、研ぎ方もシンプルです。片刃の和包丁のように「利き手専用」を意識する必要がないので、家族で共用する台所にも向いています。魚のためだけに片刃を選ぶ理由は、家庭ではほとんどありません。

二枚おろしという逃げ道

三枚おろしにこだわらなくていい場面もあります。二枚おろしは、片側の身だけを外して、もう片方は中骨をつけたままにする方法です。三枚おろしの途中で止めた形、と言ったほうが分かりやすいかもしれません。

これが役に立つのは、煮付けにするときです。骨がついたままの半身は煮崩れにくく、骨からだしが出るので味も良くなります。三枚におろしてしまうと身が薄くなって煮ると縮みますし、わざわざ骨を外した意味も薄い。料理の出口から逆算すると、三枚おろしが常に正解というわけではないことが分かります。

そして道具の面でも、二枚おろしは負担が半分です。中骨に沿って刃を通す工程が一回で済むので、失敗する機会もその分だけ減ります。三枚おろしに自信がないうちは、まず二枚おろしで刃を寝かせる感覚をつかんで、それから残り半身に挑戦するという段取りでも構いません。

手順としては、三枚おろしの前半とまったく同じです。ウロコを引いて、頭を落として、腹を開いて内臓を出す。そこから背側と腹側に切り込みを入れて、片身だけを中骨から外したら、そこで手を止める。残った側は中骨がついたままなので、そのまま煮付けの一切れとして使えます。

この止め方が三徳包丁と相性がいいのは、刃を通す回数が減るぶん、刃が骨に当たる機会も減るからです。刃を骨に当てないで済むなら、薄い刃であることの弱点はほとんど表に出てきません。二枚おろしは技術的な妥協というより、道具の得意な範囲だけを使う選び方だと考えたほうが正確です。

二枚おろしで止めたあと、残った半身をあとから外すこともできます。「今日は自信がないから二枚で止めて、切り分けは明日」という進め方でも問題ありません。魚は一度に完成させなければいけないものではないです。

ちなみに秋刀魚のように細長くて骨の細い魚は、三徳一本でも最後まで通しやすい部類です。魚種ごとの向き不向きについては、秋刀魚のさばき方をまとめた記事のほうで具体的な手順を書いています。同じ「三枚おろし」という言葉でも、魚が変われば最適なやり方は変わります。

刺身 三枚おろし 包丁の切り替え

三枚おろしのあとに刺身まで作りたいとなると、話が少し変わってきます。おろすのと刺身を引くのは、求められる性能が違うからです。

刺身は引き切りで作ります。刃を手前に引きながら、一度の動作で身を切り離す。往復させると切り口の細胞が潰れて、断面がざらつき、水っぽくなります。柳刃包丁が細長いのは、この一往復を長く取るためです。刃渡り27cm前後が標準的なのは、柵の幅を余裕を持って越えるためだと考えると納得がいきます。

では三徳で刺身が引けないかというと、そんなことはありません。柵を小さめに取れば、18cmの刃渡りでも一引きで切れます。厚みのある魚をぶ厚い柵のまま切ろうとすると刃渡りが足りなくなるので、あらかじめ柵を短く切り分けておく。これで大半は解決します。切り身が少し小ぶりになりますが、家庭で食べる分にはむしろ食べやすいくらいです。

もう一つ効くのが、切る前に身を冷やしておくことです。おろしたての魚は柔らかく、刃が入ると身が逃げます。ラップで包んで冷蔵庫で30分ほど休ませると身が締まって、同じ包丁でも断面がはっきり立ちます。道具より下ごしらえで解決できる部分は、意外と多い。

皮を引く工程も三徳で対応できます。まな板に身を皮目を下にして置き、尾側の端で皮と身の間に刃先を差し込んだら、皮を空いた手で引っ張りながら包丁は動かさずに固定する。包丁を走らせるのではなく、皮のほうを引くのがコツです。刃を動かそうとすると身に食い込みますが、皮を引けば刃は境目を勝手に進みます。

それでも刺身の断面にこだわりたくなったら、そのときが柳刃を検討するタイミングです。順番としては、三徳で三枚おろしに慣れる、扱う魚が大きくなって出刃が欲しくなる、断面が気になって柳刃が欲しくなる。この順に必要が生まれてくるので、最初から三本揃える必要はありません。私自身も柳刃を手に入れたのはずいぶん後で、それまでは三徳で引いた刺身を家族に出していました。

おろした半身から柵を取り分けたところ

三徳包丁 三枚おろしで刃渡りを選ぶ

ここまでの話を、刃渡りという一点に絞ってまとめます。三枚おろしで刃渡りが効いてくるのは、中骨に沿って身を送る工程です。

この工程では、刃を寝かせて中骨に乗せたまま、一方向に長く送ります。刃元から刃先までを使い切って一度で通せれば、切り口は一本の線になります。ところが刃渡りが半身の長さに足りないと、途中で刃を抜いて入れ直すことになり、その継ぎ目に段差ができる。段差ができた身は、そこから割れたりほぐれたりします。

だから判断はシンプルで、おろしたい魚の頭を落としたあとの胴の長さと、手元の包丁の刃渡りを比べるだけです。刃渡りのほうが長ければ一往復で通ります。短ければ二回に分けることになるので、その分だけ丁寧さが要ります。全長25cmの鯵なら頭を落とした胴は20cm弱ですから、18cmの刃渡りならほぼ一往復で足りる計算になります。

刃渡りを測るときは、柄との境目から刃先までを測ります。パッケージに書かれた「全長」は柄を含んだ長さなので、そちらで判断すると実際より長く見積もることになります。

とはいえ、長ければ長いほどいいという話でもありません。刃渡りが伸びるほど先端の位置が手から遠くなり、細かい操作の精度は落ちます。腹を開くときや腹骨をすくときは、むしろ短いほうが正確です。魚をおろす一連の作業の中に、長さが欲しい工程と短さが欲しい工程が同居している。ここが包丁選びを難しくしている理由です。

折り合いのつけ方はいくつかあります。ひとつは長いほうに合わせて、細かい工程だけ刃元を使って手を近づける。もうひとつは、腹骨をすくような細かい作業だけペティナイフに任せる。すでに小さい包丁を持っているなら、後者のほうが楽です。三徳一本ですべてをまかなおうとするより、持っているものを組み合わせたほうが結果的にきれいに仕上がります。

まな板の大きさも意外と効いてきます。刃渡り18cmの包丁を寝かせて長く送るには、まな板にそれなりの奥行きが必要です。小さいまな板だと刃を送りきる前に端に到達してしまい、結局途中で止めることになる。包丁の長さを活かせるかどうかは、実は台所の作業スペースのほうに左右されている面があります。では16cmと18cmのどちらを持つべきなのか。

境界線をもう一度確認しておきます。三枚おろしを三徳包丁でやるとき、破綻するのは二つの場面です。ひとつは刃渡りより胴が長くなったとき。もうひとつは中骨が太くて、刃が切るのではなく押す動きに変わったときです。

この二つに引っかからない魚、つまり鯵や小鯖、秋刀魚、太刀魚のような薄くて骨の細い魚であれば、手元の三徳で最後まで通せます。逆に鯛やブリのように身が厚く骨が太い魚は、頭を落とす工程だけでも人に頼るか、素直に出刃を用意したほうが安全です。道具の限界を知って避けるのは、技術がないこととは別の話だと私は思っています。

出刃を買うかどうかは、その判断を何度か繰り返してから決めれば十分です。年に数回しか丸魚を扱わないなら、三徳一本と鮮魚売り場のサービスで足ります。月に何度もさばくようになって、頭を落とすたびに面倒だと感じ始めたら、そのとき初めて買い足す理由が生まれる。順番が逆だと、使わない包丁が引き出しで錆びていくだけです。

もうひとつ付け加えると、三徳で魚をおろすなら研ぐ習慣とセットにしてください。魚は骨に当たる機会が多く、野菜だけを切っているときより刃先が痛みます。切れ味が落ちた三徳は身に対して滑るので、失敗の原因が技術なのか刃の状態なのか分からなくなる。おろす前に軽く一本研いでおけば、少なくとも道具のせいではない状態で試せます。

私が最初に鯵をおろせたときの感想は、上手にできたという達成感より、こんなものかという拍子抜けでした。難しいと思い込んでいたのは、道具が足りないと言われ続けたからで、実際には手元の三徳で足りていた。同じ思い込みで丸魚を諦めている人がいるなら、まずは一尾、いま持っている包丁で試してみてほしいです。切り身しか買わなかった頃より、魚売り場を見る時間が確実に長くなります。

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