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静岡で料理歴15年のコウスケです。包丁の収集と研ぎは10年以上続けていて、これまでに50本以上を台所で使ってきました。
正広という名前、包丁を調べていると急に出てきますよね。値段は家庭用としてそこそこ高い。でも周りで使っている人を見たことがない。そこが分からないまま1万円を出すのは、やっぱり怖いと思います。
先に正直に書いておきます。私の台所に正広はありません。この記事は使用感の自慢ではなく、メーカーが公開している品番・税込価格・鋼材名・成分・硬度・柄の構造を横に並べて、値段の差がどこから来ているのかを読み解くものです。数字の出どころは全部本文に書いてあります。
調べていていちばん驚いたのは、家庭用の主力シリーズが7つのグレードに分かれているのに、硬度の表記が全部同じだったことでした。6,050円の一番下も、15,400円の一番上も、公式の数字はHRC58〜59。ここが分かると、正広の値札の意味がひっくり返ります。
- 作っているのは岐阜県関市の株式会社マサヒロ。創業1932年、設立1948年で、事業の柱は業務用包丁と機械刃。家庭で名前を見かけにくいのはここに理由がある
- 家庭用MSCシリーズは7グレード、税込6,050円〜15,400円。硬度はすべてHRC58〜59で同じ。価格差は口金の有無・中子の形・母材の厚み・柄の材で付いている
- 12,100円のMS-600だけ鋼材が別系統で、炭素量はシリーズ最多の1.05%。しかも柄の端まで金属が通る「本通し」はこの1本だけ。15,400円の最上位より安い
- 左利き用が正規の品番で、右利きと同じ8,250円で用意されている。特注扱いではない
正広の包丁の評判を公式スペックで検証
評判という言葉は、そのままでは扱いに困ります。「よく切れた」という感想が5件あっても、その5人が同じグレードを触っているとは限りません。正広の場合はさらに厄介で、シリーズ名と品番が似ているせいで、6,050円の話と15,400円の話がひとつの「正広の評判」として混ざってしまいます。ここではまず、世の中で実際に言われていることを拾い、それがメーカーの公開している数字とどう噛み合うのかを順番に確かめます。
正広の包丁が評判ほど知られない理由
正広の評判を調べ始めると、最初にぶつかるのがこれです。情報が少ない。ブランド全体を評価した記事がほとんど見つからず、出てくるのは通販サイトの単品ページか、他のブランドのついでに一行だけ触れている記事です。
理由は会社の姿を見ると腑に落ちます。作っているのは岐阜県関市倉知にある株式会社マサヒロ。公式の会社概要によれば創業は1932年4月、設立は1948年10月で、事業内容の欄にはこう書かれています。「業務用包丁、及び家庭用包丁の製造並びに販売 / 機械刃製造」。業務用が先に来て、さらに機械刃まで手がけている会社なんです。
沿革を追うともっとはっきりします。1982年に業務用包丁の専用工場を建て、同じ年に関連会社の正広刃物株式会社を設立している。つまりこの会社の主戦場は、家庭の台所ではなく厨房と工場です。家庭用の売り場で名前を見かけにくいのは、宣伝が下手だからというより、そもそも力の入れどころが違うから、というのが素直な読み方だと思います。
ここで注意したいのが社名です。1948年の設立時は「正広鍛工株式会社」でしたが、1990年に株式会社マサヒロへ変わっています。現在の社名はマサヒロで、正広は製品ブランドの名前。公式が主要ブランドとして挙げているのは「正広/広綱/正広別作/MSC/ママカット/MASAHIRO/ など」です。「マサヒロ」と「正広」でページが混ざるのは、この事情によります。
知名度については、正直な材料がひとつあります。Yahoo!知恵袋に2018年、「正広のブランドとしての格付けはどんなものか」と尋ねる質問が立っていて、閲覧は3,000件を超えています。そこに付いた回答のひとつが「マサヒロはあまり知名度はございませんが、ブレードに関しましてはトップクラスではないかと存じます。」という書き出しでした。知名度の低さ自体は、使っている人の間でも共有されているわけです。
ただし、ここから先は慎重に扱ってください。知恵袋の回答は投稿者個人の見解です。「こういう質問と回答が投稿されている」という事実まではこの記事で扱いますが、その評価をそのまま包丁のミカタの結論として引き継ぐことはしません。この先で使うのは、メーカーが自分で公開している数字だけです。
ちなみに、量販店で誰もが目にする関孫六も、同じ関市で生まれたブランドです。売り場での見え方がここまで違うものが同じ土地から出ているというのは、関という産地の厚みを表していると思います。関孫六のほうの評価軸は関孫六の評判を匠創・ダマスカス・10000CLで比べた記事にまとめてあるので、関市つながりで見比べてみてください。
正広はステンレス包丁の共同開発から
正広を評価するうえで、いちばん効く事実がここにあります。この会社、ステンレス包丁の黎明期に開発する側にいました。
公式の沿革にこう書かれています。「1958年 故 錦織工学博士・大同特殊鋼(株)とステンレス包丁の共同開発に着手」「1962年 ハイカーボンステンレス包丁MSCシリーズ発売開始」。大同特殊鋼は特殊鋼の大手で、刃物用の鋼材でも名前が出てくる会社です。その大手と組んで、1958年の時点でステンレス包丁の中身を作りにいっている。ステンレスの包丁が当たり前にある今から見ると地味な年号です。ただ、出来上がった材料を仕入れて売る側ではなく、素材から開発する側にいた。この一行が言っているのはそこです。
そこから生まれたMSCが、今も家庭用の主力です。公式のシリーズ説明は「MSCシリーズは、発売以来約50年を誇る超ロングセラーのシリーズ最新版。正広の技術の粋を集めた、家庭用ステンレス洋包丁の名作。」という書き方。沿革の1962年から数えれば60年を超えているので、公式の文面のほうが追いついていません。それでも「約50年」と書けてしまう程度には、同じ名前で売り続けているということです。
外からの評価も年号で残っています。1972年に日本調理師会から推薦状、1974年に全国利器工匠具工業連合会から産業功労賞。そしてグッドデザイン賞にあたるGマークを、1979年にステンレス和包丁で、1983年に業務用ステンレス牛刀で、1986年に一般家庭用包丁で、合計3回受けています。業務用と家庭用の両方で取っているのがポイントで、厨房向けだけの会社ではないことが分かります。
作り方についても、公式ははっきり書いています。「当社では、素材の選定から焼入れ、仕上げの刃付けに至るまで、ほぼ全ての工程を本社工場で一貫して行います。」そして「当社の包丁に使われる材料は、日本国内で調達されたものです。また、加工の一部を海外に委託することもなく、すべてにおいて日本製。真の意味でメイド・イン・ジャパンの包丁です。」
包丁の世界では、刃だけ海外で作って国内で仕上げたものも「日本製」と表示されることがあります。そこを自分から否定して、材料の調達から焼入れまで自社工場だと書いている会社は多くありません。評判を調べる立場からすると、ここは数字より重い情報だと思っています。
正広のMSCの違いは硬度ではない

ここからが本題です。家庭用のMSCシリーズは、同じ三徳型165mmでも7つのグレードに分かれています。値段は税込6,050円から15,400円まで、およそ2.5倍の開きがあります。公式の製品ページに載っている数字を、そのまま横に並べてみます。
| グレード | 品番 | 税込価格 | 刀身の材質 | 炭素量 | 硬度 | 口金 | 中子 | 母材厚 | 重量 | ハンドル |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| MS-3000 | 11001 | 15,400円 | MBS-26 | 0.9% | HRC58〜59 | あり | 背通し | 2.5mm | 150g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-2000 | 11011 | 13,750円 | MBS-26 | 0.9% | HRC58〜59 | あり | 背通し | 1.8mm | 145g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-600 | 11021 | 12,100円 | MRS-30 | 1.05% | HRC58〜59 | なし | 本通し | 2.0mm | 160g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-500 | 11031 | 9,900円 | MBS-26 | 0.9% | HRC58〜59 | なし | 背通し | 1.8mm | 130g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-400 | 11041 | 8,250円 | MBS-26 | 0.9% | HRC58〜59 | なし | 半中通し | 1.8mm | 120g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-300 | 11051 | 6,930円 | MBS-26 | 0.9% | HRC58〜59 | なし | 半中通し | 1.8mm | 120g | 積層強化木(抗菌剤入) |
| MS-200 | 11061 | 6,050円 | ステンレス鋼 | 0.75% | HRC58〜59 | なし | 半中通し | 1.8mm | 95g | 天然木 |
刃渡りは7グレードとも165mmで共通です。数字はすべて公式の製品ページに載っているもので、こちらで足した値はひとつもありません。
並べて最初に目につくのが、硬度の列が7段とも同じだという点です。6,050円のMS-200も、15,400円のMS-3000も、公式の表記はHRC58〜59。つまりこのシリーズで9,000円以上の差を生んでいるのは、硬さではありません。
では何が変わっているのか。表を縦に読むと、動いている列は5つだけです。口金の有無、中子の形、母材の厚み、重量、そしてハンドルの材。口金というのは刃と柄の境目にある金属の部分で、MSCでは上位2グレードだけに付いています。中子は柄の中に隠れている金属の部分で、刃物業界では入り方によって半中通し・背通し・本通しと呼び分けます。柄の途中で止まるもの、柄の背中側を通るもの、柄の端まで通るもの、という順に金属の量が増えていく、という言い方が一般的です。
ただし、この3つの呼び名がそれぞれどこまでを指すのかを、正広は公式サイトで定義していません。製品ページの仕様欄に語が出てくるだけです。そこで表の重量列を見てください。母材1.8mm・口金なしで揃えると、半中通しのMS-400とMS-300が120g、背通しのMS-500が130g。中子が長いほうが10g重い。呼び名の解説はどこにもありませんが、重さの差は公式の数字にちゃんと出ています。
この「硬度ではなく作りを見る」という読み方は、実は正広自身の言い分でもあります。公式の技術解説「良い刃物とは」にこう書かれています。「良い包丁の条件はまだまだあります。刀身の厚み(材料の厚み)、重量、バランス(重心の位置)、口金の有無や取付け方、ハンドルの材質や形状と取付け方などです。」——挙がっている項目が、さきほどの表で動いていた列とほぼそのまま重なります。同じページには「従って、成分表や硬度の数値は、包丁の評価の参考にはなりますが、それだけで判断は出来ません。ご注意下さい。」ともあります。
鋼材の名前も3系統に分かれています。5つのグレードは「当社オリジナル ステンレス鋼(MBS-26)」で炭素0.9%、クロム13%、モリブデンとバナジウム入り。MS-600だけがMRS-30で炭素1.05%。そして最下位のMS-200だけが「当社オリジナル」の表記が外れた「ステンレス鋼」で、炭素は0.75%です。
添加されている金属が何をしているか
公式の技術解説ページに説明があります。クロムは「焼入性が良くなり、耐食性を増す。13%以上添加されると、ステンレス鋼と呼ばれる。」モリブデンは「炭化物を作り耐摩耗性が良くなる。ステンレス鋼では、耐食性も良くなる。」バナジウムは「非常に硬い炭化物を作り、耐摩耗性が良くなる。結晶粒を微細にする働きがある。」——どれもMSCの上位グレードに入っている元素です。
正広の包丁の硬度はHRC58〜59
硬度がすべて同じという事実は、もう少し掘る価値があります。この数字、他の包丁と比べてどのあたりなのか。
都合のいいことに、正広は自分で物差しを公開しています。公式の技術解説「包丁の硬さのひみつ」にある硬度の目安表です。安価な包丁がHRC52〜56、一般家庭用包丁がHRC57〜59、業務用の洋包丁がHRC59〜62、業務用の和包丁がHRC60〜65。この区分に当てはめると、MSCのHRC58〜59は「一般家庭用の上端」に位置します。業務用の洋包丁の帯には届いていません。
ここで面白いのが、同じページに書かれている警告のほうです。逐語で引きます。「一般に、包丁は硬ければ良い包丁のように思われていますが、実は、ここに大きな落とし穴があります。」そして「安価な炭素量の少ない材料でも、熱処理を操作すれば硬い包丁を造る事は可能です。この場合、組織中の炭化物が大きくなり、切れ味が悪かったり、割れ、折れなどが発生したりします。従って、硬度は、良い包丁の判断の目安にはなりますが、一概にそれだけで判断する事は危険です。」
硬度を売り文句にしている商品がいくらでもあるなかで、自社の包丁を選ぶ物差しを自分で否定しているわけです。そしてこれは、MSCの7グレードが全部同じHRCである理由とも噛み合います。硬さを商品の格付けに使っていないから、上げる必要がない。
もうひとつ、全グレードに共通して書かれている項目があります。「サブゼロ処理:あり」です。これが何なのかも、正広は熱処理の解説ページで自分から説明しています。「焼入れの際、常温までの冷却では焼きの入った組織(マルテンサイト)に完全に変化できません。そこで高炭素量の材料は、焼入れで一度常温まで冷却を行い、続いて速やかに液体窒素等を使用した冷却処理を行います。この2度目の冷却処理をサブゼロ処理と言います。」そして温度まで書いてあります。「当社では、約-70℃に冷却します。」そのあとの焼戻しも「約180℃で1時間前後加熱し、徐冷します」と具体的です。
工程の温度をここまで出しているメーカーは多くありません。そして6,050円のMS-200にも「サブゼロ処理:あり」が入っています。同じ解説の中で正広は、この処理が要るのは「材料中の炭素量が約0.8%以上の場合」と書いていて、MS-200の炭素は0.75%。それでも表記は他の6グレードと同じです。ここから先を読み解くだけの材料は公開されていないので、私が言えるのは「工程表のうえでは、いちばん安いグレードも上位と同じ列を通っている」というところまでです。
では硬度が同じなら、どのグレードを買っても切れ味は同じなのか。そこまでは言えません。刃付けの仕上げ方や研削の工程は公開されていませんし、鋼材そのものがMS-600とMS-200では別です。言えるのは「硬度という数字は、正広のグレード選びの判断材料にならない」ということ。逆に言えば、値段の安いグレードを選んでも硬さで損をする構造にはなっていない、ということでもあります。
正広のMS-600が上位機より安い訳
表を見ていて手が止まったのが、上から3段目のMS-600です。この1本だけ、明らかに列からはみ出しています。
整理します。MS-600の税込価格は12,100円。最上位のMS-3000は15,400円、ひとつ下のMS-2000は13,750円で、MS-600はその両方より安い。ところが鋼材を見ると、MS-600だけがMRS-30で、炭素量1.05%はシリーズで最も多い。MS-3000とMS-2000はMBS-26で炭素0.9%です。さらに中子の形を見ると、柄の端まで金属が通る「本通し」は7グレードでMS-600ただ1本。上位2つは背通しです。そして重量160gは、15,400円のMS-3000(150g)を上回ってシリーズ最重。母材も2.0mmで、1.8mm組より厚い側にいます。
つまり、値段の順番と、鋼材や柄の構造の順番が一致していません。正広のMSCは、価格順がそのまま性能順になっていないシリーズなんです。ここを知らずに「いちばん高いのを買っておけば間違いない」と決めると、少なくとも炭素量と中子の長さについては上位より薄い1本を選ぶことになります。
では上位2グレードは何を買っているのか。口金です。MS-3000とMS-2000には口金が付いていて、MS-600には付いていません。口金は刃と柄の継ぎ目を金属で塞ぐ部品で、継ぎ目に汚れが入りにくくなり、手元に重さが乗ってバランスが変わります。加えてMS-3000は母材の厚みが2.5mmとシリーズで最も厚く、厚い刃はかぼちゃのような硬いものに刃を入れるときの安心感につながります。
口金がいくらなのかは、実は表から直接読めます。MS-2000とMS-500を並べてみてください。鋼材はどちらもMBS-26で炭素0.9%、硬度はHRC58〜59、中子は背通し、母材は1.8mm、刃渡りは165mm、ハンドルは抗菌剤入りの積層強化木。公式が公開している仕様のうち、違うのは口金のあり・なしだけです。そして価格は13,750円と9,900円、重量は145gと130g。
差額3,850円、重さの差15g。この2本は、口金という部品ひとつを足すといくらになるのかを、メーカー自身の値札で見せてくれている組み合わせです。ここが高いと感じるか、継ぎ目のない作りに払う価値があると感じるかは、台所の使い方で変わります。私は洗うのが面倒くさがりなので、継ぎ目が埋まっている形には素直に惹かれます。
どちらを選ぶか
継ぎ目を塞いだ形と、厚い刃が欲しい人はMS-3000かMS-2000。炭素量の多い鋼材、柄の端まで金属が通る構造、そしてシリーズ最重の160gという手応えに価値を感じる人はMS-600。公式が公開している範囲では、この2つは優劣ではなく方向の違いです。
線引きだけしておきます。炭素が多いほうが優れている、とは書きません。MRS-30を使ったことで何がどう変わるのかは公開されていないからです。言えるのは「値段の階段と、鋼材や柄の構造の階段が別々に作られている」という事実まで。
▼ 価格順が性能順ではないことを体現している1本(MS-600 三徳型165mm・公式価格12,100円税込)
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正広の牛刀が評価されてきた背景

家庭用の話ばかりしてきましたが、正広の評判のもうひとつの柱は洋包丁、とくに牛刀です。
年号から見ます。公式の沿革に「1983年 業務用ステンレス牛刀 Gマーク受賞」とあります。3回のGマークのうち1回が、業務用の牛刀で取られている。事業内容も「業務用包丁、及び家庭用包丁の製造並びに販売」で業務用が先に書かれ、1982年には業務用包丁の専用工場まで建てています。厨房向けの洋包丁がこの会社の中心にあるのは間違いありません。
現在の業務用ラインの代表がMV-Sシリーズです。公式の説明はこうです。「MV牛刀シリーズに抗菌ステンレスハンドルを装着したシリーズ。刃身は錆に強く、切れ味の持続性に優れたハイカーボンステンレス鋼『MBS-26』を使用。滑り止めを考慮したデザインのハンドルは、耐久性もプラスした理想的な設計。薬品消毒によるハンドルの劣化を防ぎます。」そして「HACCP対応」と明記されています。
公式に載っている牛刀の価格はこうです。牛刀180mmが22,550円、210mmが24,200円、240mmが31,350円(いずれも税込)。刃渡りが長くなるほど段階的に上がっていく、業務用らしい素直な値付けです。同じシリーズには三徳型175mmの22,550円、ペテー120mmの15,400円、骨透(角)145mmの24,200円もあります。骨透がラインに入っているのは、肉を扱う現場を前提にしている証拠です。
肉との相性については、先ほどの知恵袋に「正広は洋包丁、特に肉包丁としては随一です。」という回答が投稿されています。同じ人が「正広はシェフはあまり使いません」とも書いていました。どちらも投稿者個人の見解なので、正しいとも誤りとも言いません。ただ、この2つが並んでいる状況そのものが、正広の立ち位置をよく表しているとは思います。現場で使われていることと、名前が表に出ていることは別です。
家庭で牛刀を使いたいだけなら、MV-Sを買う必要はありません。22,550円はHACCP対応のハンドルを含んだ業務用の値段です。家庭用のMSCにも剣型180mmがあり、MS-3000の11002が15,400円、MS-200の11062が6,050円。剣型は牛刀と同じ形で、先が尖って刃が直線的に伸びているタイプです。肉を引いて切ることが多い人は、三徳ではなくこちらを見てください。他社と並べて位置を確かめたいときは、包丁ブランドを価格帯別に比較した記事もどうぞ。
評判で迷う人の正広の包丁の選び方
ここからは実際に買う場面の話です。正広は型番が多く、しかも値段の順番と中身の順番がずれているので、「とりあえず真ん中」という選び方が効きません。どこにお金を払うのかを先に決めてしまったほうが、結果的に早く決まります。価格帯ごとの考え方、プロ用と家庭用の関係、左利き用の扱い、そして買える場所まで順番に片付けます。
正広の包丁のおすすめは価格帯で選ぶ
三徳型165mmを軸に、公式の税込価格で3つの帯に分けて考えます。
6,050円〜6,930円(MS-200・MS-300)。この帯は「正広を試す」ための入口です。MS-300は鋼材がMBS-26で上位5グレードと同じ、中子は半中通し、母材1.8mm、重量120g。MS-200だけは鋼材の表記が「ステンレス鋼」で炭素0.75%、ハンドルも天然木に変わり、重量は95gまで落ちます。880円差でこれだけ変わるので、抗菌剤入りの積層強化木が欲しいなら6,930円のMS-300まで上げたほうが揃いはよくなります。逆に、とにかく軽い包丁を探している人にとっては95gという数字自体が選ぶ理由になります。
8,250円〜9,900円(MS-400・MS-500)。家庭用として私がいちばん現実的だと思う帯です。MS-400は8,250円で鋼材MBS-26、母材1.8mm、重量120g、ハンドルは抗菌剤入りの積層強化木。MS-500は9,900円で中子が背通しに上がり、柄の背中側に金属が入って130gになります。1,650円の差で手元の作りが変わり、重さも10g増えると考えると、この2本の比較は分かりやすいほうです。
12,100円〜15,400円(MS-600・MS-2000・MS-3000)。ここから先は口金か、鋼材と本通しか、という選択になります。前の項目で書いたとおり、この帯は値段の順番で選ぶと中身がねじれます。
重さの感覚も書いておきます。MS-400の120gという数字は、家庭用の三徳としてはかなり軽いほうです。私が毎日使っている藤次郎のF-503は三徳170mmで約190g。70gの差は手首にはっきり出ます。キャベツを1玉刻むような作業では軽いほうが最後まで楽ですが、かぼちゃや大根の太いところを刃の重さで割っていく使い方だと、軽さは物足りなさに変わります。刃の重さに仕事をさせたい人は、シリーズ最重の160gはMS-3000(150g)ではなくMS-600だということを覚えておいてください。ここでも値札の順番とは合いません。刃の厚みで選ぶなら2.5mmのMS-3000です。
1万円前後で包丁を探している人向けの比較は1万円の包丁のおすすめをまとめた記事に別で書いてあります。正広のMS-400とMS-500はちょうどその帯の中に入るので、他社と横に並べてから決めたい人はそちらを先に読んでもらったほうが早いと思います。
▼ 迷ったらこの1本(MS-400 三徳型165mm・公式価格8,250円税込/通販の売値は変動します)
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楽天市場で正広 MSC MS-400 を探す
もう少し予算を抑えたいなら、同じ鋼材で6,930円のMS-300という手もあります。Amazonで正広 MSC MS-300 三徳型165mm を見ることができます。
プロ用MV-Sと家庭用MSCの鋼材
正広を調べていると、必ず引っかかる疑問があります。業務用のMV-Sは三徳175mmで22,550円、家庭用のMSC MS-400は三徳165mmで8,250円。3倍近い差は、刃の中身の差なのか。
公式の表記を突き合わせると、答えは意外なものになります。MV-Sの説明文にある鋼材は「ハイカーボンステンレス鋼『MBS-26』」。そしてMSCのMS-3000、MS-2000、MS-500、MS-400、MS-300に書かれている材質も「当社オリジナル ステンレス鋼(MBS-26)」です。公式が示している鋼材の名前は、プロ用と家庭用で同じなんです。
ここは丁寧に線を引かせてください。鋼材名が同じことと、刃としての性能が同じことは、別です。刃付けの角度、研削の工程、焼入れの条件といった部分は公開されていませんし、用途が違えば刃の付け方も変わるのが普通です。だから「同じ切れ味です」とは書けません。書けるのは、公式が公表している材質の欄が一致しているという事実までです。
では22,550円と8,250円の差は何を買っているのか。公式の説明を読むと、ハンドルに集中しています。MV-Sは「MV牛刀シリーズに抗菌ステンレスハンドルを装着したシリーズ」で、「薬品消毒によるハンドルの劣化を防ぎます」と書かれ、「HACCP対応」と明記されています。HACCPは食品を扱う現場の衛生管理の仕組みで、厨房では薬品による消毒が日常的に行われます。木の柄では、それに毎日さらされると持ちません。
家庭でMV-Sを買う意味はあるか
薬品消毒を毎日する家庭はまずありません。MV-Sの価格に含まれている衛生管理のための設計は、家庭では使い切れない部分が大きいということです。ただしオールステンレスの柄そのものには、木の柄と違って水を吸わない、継ぎ目に汚れが溜まりにくいという家庭でも効く利点があります。木の柄の手入れが面倒だと感じている人には、選ぶ理由になります。
業務用の質感を家庭で使ってみたい人向けに、リンクだけ置いておきます。刃渡り175mmと家庭用より少し長く、重心もハンドル側に寄るので、扱いは別物だと思ってください。Amazonで正広 MV-S 三徳175mm を見る
正広には左利き用が同じ値段である

左利きの人が包丁を探すときにぶつかる壁は、だいたい3つです。そもそも品揃えがない、あっても特注で納期がかかる、そして値段が上がる。正広はこの3つのうち、少なくとも2つをクリアしています。
公式のカタログに、MSC MS-400 三徳型の左利き用が品番11045・税込8,250円で載っています。右利きのMS-400が品番11041で8,250円ですから、まったくの同額です。特注ではなく通常の品番として並んでいて、通販でも在庫を見かけます。左利き用が右利きと同じ値段で、同じシリーズの中に普通に置かれている。これは他社と比べても目立つ扱いです。
なぜ洋包丁でも左右があるのか。三徳のような両刃の包丁は、左右対称に研がれているわけではありません。多くは右側を少し多めに削った非対称の刃付けで、右手で持つと食材が右へ離れていきます。左手で右利き用を使うとこの効きが逆になり、大根の桂むきや薄切りで刃が食材へ食い込む感じになります。使えないわけではありませんが、薄いものほど差が出ます。
加えてハンドルの形もあります。MSCのハンドルは抗菌剤入りの積層強化木で、握ったときに指が収まる形に整えられています。左右のあるモデルでは、この形も鏡に映した向きで作られます。刃と柄の両方が左手のためにできている、というのが左利き用の意味です。
ひとつだけ現実的な注意を。左利き用は右利き用ほど数が出ないので、通販での在庫が動きやすく、タイミングによっては見つからないことがあります。欲しいと思ったときに出ているなら、そこで押さえておいたほうが確実です。研ぎに出すときも「左利き用です」と最初に伝えてください。黙って渡すと、右利きの前提で研がれて非対称の向きが崩れることがあります。
▼ 左利き用(MS-400 三徳型165mm 左用・公式価格8,250円税込・右利きと同額)
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なお、同じMS-400には小三徳143mm、子供包丁140mm、ペテー120mmもあります。価格は順に6,050円、6,050円、4,730円(税込)。子供包丁が正規のラインにあるのは、家庭用を続けてきた会社らしいところです。
正広の包丁はどこで買えるのか
買い方の話をします。ここは正広が少し特殊で、公式サイトの見方を間違えると手が止まります。
公式サイトには注文ページがあります。ただしカートに入れて決済する形式ではありません。オーダーフォームに欲しい商品を記入して送る方式で、公式にはこう書かれています。「ご注文内容を送信して頂いた後、振込先・支払合計金額 等をご連絡いたします。」つまり送信した時点では金額が確定せず、あとからメールで案内が来ます。支払いは「銀行振込(※振込手数料はお客様ご負担となります。)」と「クレジットカード決済(ご発注をいただきましたら決済用URLをお送りします。)」の2つです。
送料も明記されています。北海道1,500円、本州・四国・九州800円、沖縄1,800円、離島は問い合わせ。そして「合計金額 ¥5000以上(税抜)お買い上げで“送料無料”(本州・四国・九州)」。MSCの三徳型は税込6,050円のMS-200でも税抜5,500円なので、7グレードどれを1本買っても本州・四国・九州なら送料はかかりません。北海道と沖縄は無料にはならず、それぞれ700円と1,000円に下がる書き方になっています。在庫は「ご注文いただきました商品が在庫切れの場合は、ご連絡いたします。」という書き方で、注文前に見える仕組みではありません。
公式で買うときの注意を先にまとめます。すぐに届く買い方ではありません。フォームを送る、金額の連絡を待つ、振り込む、という往復が入ります。急いでいるとき、金額をその場で確定させたいとき、ポイントを使いたいときは通販サイトのほうが向いています。逆に、欲しい品番がはっきり決まっていて通販で見つからない場合は、公式のオーダーフォームが確実な入手経路になります。
実店舗で探したい人向けには、公式サイトに全国の取扱店の一覧があります。北海道から沖縄まで地域別に分かれているので、近くに置いている店があるかはそこで確認してください。個別の店名をこの記事に書かないのは、店ごとに扱っている品番が違い、確認しないまま書くと空振りさせてしまうからです。
ひとつ情報の更新があります。公式のお知らせに「2026.02.25 東京営業所閉鎖のお知らせ」が出ています。沿革には1990年に東京営業所を開設、2021年に台東区東上野へ移設と書かれていますが、東京営業所は現在は閉鎖されています。古い記事を見て訪ねてしまわないよう、ここだけ気をつけてください。
手っ取り早いのは通販サイトです。MSCの三徳型は主要なグレードが揃っていて、品番で検索すれば目当てのものに届きます。ただし売値は日ごとに動くので、この記事には金額を書いていません。基準は公式の税込価格。MS-400なら8,250円、MS-600なら12,100円。これより下がっているかどうかで判断すれば迷いません。
正広の包丁の評判まとめとよくある疑問
最後に、検索でよく見かける疑問に短く答えてから線を引きます。
正広の包丁は自分で研げる?
研げます。MSCは両刃のステンレス洋包丁で、硬度も公式表記でHRC58〜59。家庭用の中砥石(#1000前後)で普通に研ぎ直せる範囲です。特別な砥石が要るという記載は公式にもありません。ただし左利き用を研ぐときだけは、刃の向きが鏡合わせになっていることを忘れないでください。
MSCとMV-Sはどっちが上?
上下では比べられません。公式が示す刃の鋼材はどちらもMBS-26で、MV-Sの価格に乗っているのはHACCP対応の抗菌ステンレスハンドルです。家庭で薬品消毒をしないなら、その分の価値は使い切れません。
高いグレードのほうが切れる?
公式の硬度表記は7グレードとも同じHRC58〜59なので、硬さでは差がつきません。しかもMS-600は上位2グレードより安いのに、炭素量が最も多い鋼材と唯一の本通しを持っています。値段の階段をそのまま性能の階段だと思わないでください。
まとめます。正広の包丁の評判は、実体としては「名前は知られていないが、公開されている中身は素直」というところに落ち着きます。1958年に大同特殊鋼と組んでステンレス包丁を開発し、Gマークは業務用と家庭用の両方で受けている。材料の調達から焼入れ、刃付けまで本社工場で一貫して行っていることも、自分で明記している。評判が見つからないのは、実力ではなく売り場の問題です。
買うときの判断はシンプルです。硬度はグレード選びの材料にならないので、口金が欲しいか、柄に金属がどこまで入っていてほしいか、刃の厚みと重さをどうしたいか、の3つで決める。家庭で毎日使うなら、私はMS-400の8,250円がいちばん収まりがいいと思っています。鋼材は上位と同じMBS-26で、120gの軽さは長く刻む作業で効きます。刃の厚みが欲しい人は2.5mmのMS-3000、手元の重さと鋼材と柄の構造で選ぶなら160gのMS-600です。
向かない人もはっきりしています。ブランドの名前で選びたい人には物足りないはずです。売り場で説明を受けながら決めたい人も、置いている店が限られるので苦労します。業務用の和包丁のような硬い刃を期待している人は、HRC58〜59が一般家庭用の帯であることを先に知っておいてください。
この記事の品番・税込価格・鋼材名・成分・硬度・中子の形、注文方法と送料は、すべて株式会社マサヒロの公式サイトから取りました。会社概要と製品ページ、それに「包丁の話」という技術解説に載っています。狙っているグレードのページと硬度の解説だけでも読んでおくと、納得して買えます。
自分の台所で何をいちばん切っているか。手元に重さが欲しいのか、軽さが欲しいのか。この2つが決まっていれば、正広の7グレードはむしろ選びやすいシリーズです。決まらないまま値段の順に上から見ていくと、いちばんねじれた買い方になります。
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