静岡で料理歴15年のコウスケです。研ぎの動画を見ていると、ときどき「砥取家」という見慣れない三文字が出てきます。私も最初は人の名前かと思っていました。
調べてみると、京都・亀岡で天然の仕上げ砥石を掘っている採掘元でした。ところが検索結果に並ぶのは紹介記事と、在庫が空のままの商品ページばかりです。いくらするのか、どこで買えるのか、そもそも家庭の包丁に要るのか。知りたいところが書いてありません。
先に立場を書いておきます。私の砥石は#400から#8000まで全部が人造で、天然砥石は一枚も持っていません。砥取家を訪ねたこともない。だからこれは体験談ではなく、公式の文章と、販売ページ433点の在庫を2026年10月3日に一つずつ開いて確かめた記録です。
- 砥取家は京都府亀岡市の丸尾山で天然の仕上げ砥石を掘っている採掘元。読みは「ととりや」
- 粒度は公式の説明で#7000〜#9000。中砥で刃を付けたあとに使う、仕上げ専門の石
- 2026年10月3日時点ではオンラインがほぼ全滅。公式の433点で在庫が残っていたのは8万円超の5点だけで、Amazonは在庫切れ、楽天は出品なし
- ステンレスの三徳が1本という家庭なら、先に買うべきは中砥。天然砥石はその先の話
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砥取家とは|京都・亀岡で天然砥石を掘る会社
まず、どういう会社なのかを公式サイトの記述だけで組み立てます。ここが曖昧なまま値段の話に進むと、高いか安いかを判断できません。読み方と会社の素性から始めて、掘っている山、石の種類と硬さ、人造砥石との違いへと進みます。
砥取家の読み方と会社の基本情報
読み方は「ととりや」です。公式サイトのタイトルにも振り仮名が入っています。「とどりや」ではありません。
会社案内のページには、こう書かれています。
社名 砥取家 (ととりや)
営業内容 天然合砥採掘加工直販
代表者 土橋要造 (つちはし ようぞう)
所在地 〒621-0231 京都府亀岡市東本梅町大内上条20
注目したいのが営業内容の「天然合砥採掘加工直販」という並びです。掘って、加工して、自分で売る。砥石メーカーというより、鉱山を持った直売所に近い形だと分かります。法人格は2017年に「砥取家合同会社」へ改組していて、通販ページの特定商取引法表記も販売業社名が砥取家合同会社です。屋号と法人名の二階建てになっています。
創業年については、少し込み入った話をしておきます。沿革の一行目は原文で「1878年 明治10年 創業」。ところが明治10年は西暦1877年で、1878年は明治11年にあたります。公式の表記そのものが一年ずれているわけです。さらにトップページの見出しは「京都・亀岡 天然砥石を掘り続けて130年」。1878年創業なら2026年で148年目の計算になり、130年とは噛み合いません。
この記事では創業年を一つに決めません。公式が「1878年 明治10年 創業」と書き、同じ公式が「掘り続けて130年」と掲げている。その両方をそのまま置いておきます。どちらかに丸めた瞬間に、それは私の推測になってしまうからです。
年数の数え方はさておき、公式サイトには「京都府にて100年以上続いている企業として、京都府知事より平成25年度『京の老舗』表彰をいただきました」とあります。長く続いていること自体は、第三者の表彰という形で裏が取れています。
丸尾山の天然砥石はどんな石か
砥取家が掘っているのは、亀岡市にある丸尾山という砥石山です。公式サイトの説明を引きます。
亀岡市北西、いわゆる『西物』の天然砥石山は比較的新しく、明治なってから採掘が始まりました。付近3km以内には本口成り、合石成りの抗口が大小含めて500程度ありました。その中の一つが現在、砥取家で採掘を行っている丸尾山です。
半径3キロの範囲に坑口が500。それだけ掘られていた土地だということです。そのうちの一つが丸尾山で、三代目の正次さんと四代目の要造さんが昭和50年代に採掘を始めたとあります。今も坑内掘り、つまり山に穴を開けて中へ入る方式で、坑内に層ごとの坑口をいくつも持っているのが特徴だそうです。

四代目の挨拶文には、もう少し踏み込んだ一文があります。
かつては京都から亀岡まで続く天然仕上げ砥石の本層には幾つもの砥石山があり、採掘が盛んに行われ地場産業として非常に活気がありましたが、現在では、数多くあった砥石山の殆どが閉山し、本格的に採掘を行っているのは丸尾山の砥取家だけとなっております。
本格採掘はここだけ、という記述です。ただしこれは採掘している当事者の説明であって、第三者が集計した統計を私は見つけられませんでした。「公式がそう書いている」以上のことは言えません。
採れる石についても補足しておきます。公式の説明では、丸尾山で掘っているのは「本口成り」の仕上げ砥石で、巣板の層と戸前の層の両方を持つ山だとされています。
なお、採れた石がすべて同じ扱いになるわけではありません。公式には「研磨力、研ぎ味、姿など、天然砥石としての優れた特徴を備えた特に格の高い砥石を厳選し、『丸尾山蔵砥』と銘打って取り扱いさせて頂いております」とあります。蔵砥は2007年に商標登録されていて、同じ丸尾山産でも選別を通った一群に付く銘だと読めます。
天然砥石の種類は合砥と巣板とコッパ
天然砥石の分類から整理します。公式サイトによれば、天然砥石は砥粒の粗さで「荒砥」「中砥」「仕上砥」の三つに分かれ、京都で採れるのは中砥と仕上砥の二種類だけです。そして仕上砥には別名があります。
仕上げ砥石は人や刃物に『合わせる石』という意味で『合砥(あわせど)』という別名で呼ばれております。
合砥という聞き慣れない言葉は、「合わせる」から来ていたわけです。研ぎ手と刃物に合う石を選ぶ、という発想が名前そのものに入っています。
丸尾山で採れる層は、公式の記載では天上巣板・八枚・千枚・戸前・合さ(カラス)・大上・敷巣板。細かく分けると30種類あると書かれています。この層の違いが、そのまま石の性格の違いになります。公式の説明を要約せずに並べると、こうです。
巣板(白巣板・黄色巣板・卵色巣板・黒蓮華など)…「非常に砥ぎ易く早く仕上がり、長切れする。地金の研ぎムラが少なく目詰まりしにくい。料理人さん、大工さん等の現場用に最適」
合砥(大上・合さ・本戸前・八枚・千枚など)…「巣板に比べて硬度が高めで粒子がより細かい石が多く、微密に仕上がる。最終仕上げに向き、鉋の薄削りにも対応する」
現場で毎日使うなら巣板、仕上がりの細かさを極めるなら合砥。そういう住み分けだと公式は説明しています。包丁を研ぐ目的なら巣板側のほうが相性がよさそうに読めますが、ここは断定できるだけの材料がありません。
もう一つ覚えておきたいのが「コッパ」です。大きな原石から型を取ったあとに出る小片のことで、公式オンラインショップでも合砥とは別のカテゴリになっています。天然砥石に手を出すときの、いちばん安い入口がここです。値段は後の見出しで具体的に出します。
仕上げ砥石としての粒度と硬さ
人造砥石に慣れていると、まず知りたいのが番手です。丸尾山の石について、公式はこう書いています。
砥粒(粒子)が細かく、粒度は#7000~#9000となります。天然砥石は砥ぎこむほど細かくなり、#20000レベルの粒度となっていきます。
#7000から#9000。人造でいえば超仕上げの領域です。しかも研ぐうちに砥粒が砕けて細かくなり、#20000相当まで進むという説明が付いています。番手が最初から最後まで一定の人造砥石とは、考え方がまるで違います。
硬さは「普通」から「超硬め」まで幅があり、名倉を必要とするような超硬めは扱っていないとのこと。そして末尾に、こんな但し書きが添えられています。
※砥石の硬度は、研ぎ手、研ぐ刃物の鋼、また同じ層でも一本一本微妙に感じ方が違います。
売る側が「同じ層でも一本ずつ違う」と書いているのは、親切だと思います。工業製品の番手表示のつもりで買うと、たぶん戸惑う。そういう前置きとして受け取っておくのがよさそうです。
番手が高いと聞くと「削れないから時間のかかる石」を想像しますが、公式の説明は逆です。「研ぎ出しが早く、良い刃が早く付く実用的な砥石」で、1000分の1ミリ単位の鉋の薄削りまで対応できるとあります。鉋の世界で求められる水準の石だと思うと、価格の桁が違う理由も少し腑に落ちます。
対応する刃物の幅は広く、包丁・鉋・ナイフ・彫刻刀・鋏まで、鋼材も炭素鋼から特殊鋼・ハイス鋼・特殊粉末鋼まで対応できると書かれています。自分の包丁がどの鋼材なのか分からない人は、青紙・白紙・ステンレスの違いをまとめた記事を先に読んでおくと話が早いです。番手の考え方そのものを整理したいなら、砥石の番手の選び方の記事があります。
天然砥石と人造砥石の違いはどこか
公式サイトには、人造砥石との比較だけを扱ったページがあります。採掘して売る側の主張なので、そのつもりで読んでください。
人造砥石は比較的早く砥げるが、研磨力があり過ぎて返り(刃返り、バリ)が出来やすく、取れにくい為、刃先が鋭利に仕上げにくい。対して天然砥石は研磨力が控えめな為、比較的研ぎに時間を要する反面、返りが出にくく刃先が鋭利に仕上げやすい。
返りの出にくさが一点目。二点目は、軟らかい部分から優先的に研ぎ下りるので硬い部分が表面に揃い、刃持ちがよく長切れするという説明です。三点目は番手の考え方。人造砥石は混ざる研磨剤によって深い傷が出るものがあるのに対し、天然砥石は研ぐうちに粒が砕け、均一な研ぎ肌になりやすいとしています。四点目が錆びにくさです。同じくらいの粒度なら天然で仕上げたほうが錆びにくく、人造だと1.5倍から2倍の粒度まで上げないと追いつかない、と。

この四点に第三者の検証データが付いているかというと、研ぎ上がりを数値で比べた資料も含めて、探した範囲では見つかりませんでした。「科学的に証明されている」とは書けない話です。採掘元が自社の石の長所として説明している内容、という位置づけで止めておきます。
とはいえ、中身そのものは筋が通っています。番手を一つの数字で言い切れないという指摘には、心当たりがあります。メーカー違いの#3000どうしで、研ぎ上がりの肌がまるで別物だったことがある。人造側で比較対象になるのは#5000前後でしょう。シャプトンの刃の黒幕 #5000(エンジ)は2026年10月3日時点で6,468円。天然のコッパの下限が1万円台なので、ここを一枚挟んでから考えても遅くはありません。
砥取家の砥石の値段と買い方|家庭に必要か
ここからが本題です。値段がいくらで、どこなら実際に買えて、試す方法があるのか。最後に、家庭の包丁にこの石が要るのかどうかを書きます。価格と在庫は2026年10月3日の朝に確認したもので、どちらも動きます。
砥取家の砥石の値段と型のサイズ
公式サイトには、大きさの規格と参考価格の一覧があります。天然砥石の値段がどれだけの幅で動くのかが一目で分かる表です。
| 呼称 | 格付け | 寸法の目安 | 参考価格 |
|---|---|---|---|
| 大判 | 蔵出し | 長さ250mm以上・幅100mm以上 | 120,000円〜 |
| 尺長 | 蔵出し | 218×78mm | 90,000円〜 |
| 30型 | 蔵出し | 205×75mm | 70,000円〜 |
| 40型 | 蔵出し | 205×75mm | 50,000円〜 |
| 50型 | 蔵出し | 180×82mm | 35,000円〜 |
| 60型 | 特上 | 195×70mm | 30,000円〜 |
| 80型 | 特上 | 180×63mm | 15,000円〜 |
| レーザ型 | 特上 | 136×82mm | 13,000円〜 |
表には「※仕上がりや筋、傷などの難により若干前後致します」という注記が付きます。同じ型でも石の状態で動くということです。
では実際のオンラインショップにいくらの石が並んでいるのか。確認した時点では、合砥のカテゴリが42,900円から240,000円、コッパのカテゴリが11,000円から28,600円でした。商品ページの実例を挙げると「卵色巣板巣なし」が20,900円、寸法は183×63×51mmで厚みは5センチ以上。表示はすべて税込です。
ひとつ断っておきます。ここに挙げたのは棚に並んでいる値段であって、買える値段ではありません。同じ日に在庫の表示まで見にいくと、話がまるで変わります。いま例に出した「卵色巣板巣なし」も、確認した時点では空でした。その中身は次の見出しで数えます。
コッパで1万円台から、包丁に使える実用サイズで2万円前後から、合砥は上が24万円まで。これが現実の価格帯です。人造の中砥が3千円前後で買えることを思えば、桁が一つ違う世界だと分かります。
価格について公式はこう書いています。「丸尾山天然砥石は、天然仕上砥石の上級とされる大判の極上品から比較的安価なコッパまで、生産地直売方式で販売させていただいております。そのため、6~7割のお値段 でご購入いただけます」。掘った本人が売るぶん中間が抜ける、という理屈です。ただ、何と比べて6〜7割なのかは書かれていません。
砥取家の砥石はどこで買えるのか
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。先に結論を置きます。2026年10月3日の時点で、1万円台のコッパも2万円前後の実用サイズも、オンラインでは一枚も買えませんでした。公式のショップも含めてです。在庫が残っていたのは、8万円を超える石が5点だけ。それ以外はどこを見ても空でした。
数え方を書いておきます。公式オンラインショップの商品は、合砥・巣板・コッパ・原石・セット品・特選品・別誂品・その他の8カテゴリで合計433点。この433点ぜんぶについて、商品ページに出る在庫表示を一つずつ開いて確認しました。
| カテゴリ | 掲載点数 | 在庫あり | 価格帯 |
|---|---|---|---|
| 合砥 | 49 | 0 | 42,900〜240,000円 |
| 巣板 | 140 | 2 | 30,800〜330,000円 |
| コッパ | 45 | 0 | 11,000〜28,600円 |
| 特選品 | 51 | 0 | 11,000〜187,000円 |
| 別誂品 | 117 | 3 | 39,600〜660,000円 |
| 原石 | 12 | 0 | 8,900〜34,000円 |
| セット品 | 18 | 0 | 9,900〜154,000円 |
| その他商品 | 1 | - | 「砥石テスト用」1,000円 |
| 合計 | 433 | 5 | - |
在庫が残っていたのは5点だけでした。中身はこうです。巣板の「黒蓮華」88,000円と「敷内曇り」121,000円、別誂品の「中山青ピン」121,000円、「表山蓮華スイタ」253,000円、「中山スイタ」286,000円。どれも8万円を超える石です。「その他商品」の1点は商品名が「砥石テスト用」(商番t001・1,000円)なので、売り物の石としては数えていません。
つまり、天然砥石の入口として現実的なコッパは45点すべてが空。合砥49点も、特選品51点も、原石も、セット品も、残らず在庫なしでした。1万円台から2万円台で一枚試してみる、という買い方は、この日できなかったということになります。
在庫なしの表示がどこまで実態を表しているのかも確かめました。在庫なしになっている石を買い物かごに入れる操作をしてみると、返ってくるのはこの一行です。
大変申し訳ございませんが、現在品切れ中です。
かごは空のまま、注文には進めません。買い物かごのページが開くことと、買えることは別の話です。白状すると、私も最初は「かごもマイページも開くのだから公式なら買える」と書きかけました。開くかどうかではなく、入るかどうかまで見ないと分からない。これは自分への戒めとして残しておきます。
通販の他の窓口も見ました。
Amazon…砥取家ブランドで出品されている商品は丸尾山の白巣板が1点だけで、確認した時点で在庫切れ。価格も表示されていませんでした。
楽天市場…「丸尾山 天然砥石」「砥取家 砥石」で検索すると件数は表示されるものの、商品名に丸尾山や砥取家を含む出品は0件。曖昧一致で無関係な商品が並んでいるだけです。
刃物専門の小売店…検索上位に出てくる川口金物店には「砥取家 土橋様の了承を得て」丸尾山の天然砥石を販売しているという案内があります。一覧はページ自身が「42件」と表示していて、その42点すべてが在庫なしでした。
オンラインは、要するに総崩れです。けれど石が手に入らないという意味ではありません。公式は、オンライン以外の注文窓口をちゃんと用意しています。
メールでのご注文 info@toishi.jp
メールでのご注文は、①ご希望の商品名、②氏名、③住所、④電話番号、⑤メールアドレス、⑥お支払い方法をご記入のうえ、ご送信ください。
お電話でのご注文 0771-26-2545
昼間は砥石山に行っていることが多いため、お電話はできるだけ夜間にお願いいたします。(受付時間:18時~23時)
FAXでのご注文 0771-26-2545
FAXでのご注文は24時間、承っております。
メール・電話・FAXのいずれも、支払いは代金引換・銀行振込・郵便振替の3つから選ぶ形。オンラインショップから買う場合はこれにクレジットカード・PayPal・コンビニ決済が加わって6種類になります。送料は地域別で700円から1,740円、3万円以上で全国無料。発送は注文確認後3〜7日以内が目安です。
もう一つの道が現地です。研ぎ体験のページは、見出しからしてこうなっています。
天然砥石 試し研ぎにて購入できます
天然砥石ならではの研磨力、研ぎ味、微密な仕上がりを実感していただき、豊富な砥石の中からお持ちの刃物にかなう砥石を探してご購入いただくことが可能です。
「豊富な砥石の中から」「ご購入いただくことが可能です」。ウェブの棚が空でも、現地には石があると公式自身が書いているわけです。続けて「刃物をご持参の上、気軽にお立ち寄りください」「※ご希望の方は、お電話、メールにて事前のご予約をお願いいたします」とあります。
いま石を手に入れたいなら、亀岡へ行って試し研ぎで選ぶか、電話・メール・FAXで在庫を問い合わせる。残っていた5点に手が届かないのなら、2026年10月3日時点で生きている買い方はこの二つでした。現地へ行く場合の詳しい話は、次の次の見出しにまとめます。
在庫は動くものです。この記事を読んでいる時点でどうなっているかは、砥取家の公式サイトでご自分の目で確かめてください。ここに書いた数字は、あくまで一日分のスナップショットです。
天然砥石の見分け方と返品の条件
写真だけで石を選ぶのは、正直かなり難しい作業です。公式サイトには「購入のポイント」として四つの基準が挙げられています。
- 見たところ色や形に難がない石
- 筋があっても刃物に当たらない石
- 冴えのよいまったりした石
- 厚みがある石
一つめと四つめは写真と寸法表示で判断できます。厚みは商品ページに数ミリ単位で書かれているので、見落とさなければ迷いません。二つめの「筋があっても刃物に当たらない」も、写真を拡大して筋の走る位置を見れば当たりは付きそうです。筋は天然石である以上どうしても入るので、あるかないかではなく刃を当てる面に出ているかで見る、ということでしょう。問題は三つめの「冴えのよいまったりした石」で、これは画面越しには分かりません。
そのぶん、返品の条件は確認しておく価値があります。公式の記載はこうです。
万一ご満足がいかない場合は原則と致しまして、20万円以下の商品の返品及び交換を受け付けさせていただくことにしました。返品、交換の場合は商品到着後7日以内にご相談下さい。ただし、返送料金はお客様ご負担とさせていただきます。
20万円以下なら返品できて、期限は到着後7日。返送料は自己負担。この三つをセットで覚えておくと、はじめの一枚で思い切りやすくなります。逆に、20万円を超える石は返品の対象外という読み方にもなります。
先ほどの川口金物店には「お届けから3日間の試し研ぎ期間を設定させていただきます」という独自の仕組みもありました。研いでから返せるのは、天然砥石の性格を考えるとかなり良心的です。ただし決済方法によっては対象外になるうえ、何より今は在庫がありません。使える選択肢としては数えられない、ということになります。
研ぎ体験と天然砥石館はどう違う
触らずに買うのが不安なら、現地で試す手があります。ここでよく混同されるのが、砥取家そのものと「天然砥石館」という施設です。別の場所にある、別のものです。
まず砥取家の研ぎ体験。公式ページにはこう書かれています。
砥取家では、包丁研ぎ、鉋研ぎなど、あらゆる刃物の鋼に合った最終仕上砥の選び方や研ぎ方などをアドバイスさせていただいております。(中略)刃物をご持参の上、気軽にお立ち寄りください。※ご希望の方は、お電話、メールにて事前のご予約をお願いいたします。
自分の包丁を持ち込んで、合う石を探しながら買えるという案内です。曜日と時間についても補足しておきます。公式サイトの連絡先欄には「0771-26-2545(火・水定休)(10:00~16:00)」とあります。ただしこれは研ぎ体験のページだけに置かれた営業時間ではなく、どのページを開いても上に出てくる共通の連絡先表示です。研ぎ体験の受付時間として書かれているわけではないので、予約の電話で直接確かめてください。料金も公式サイトには記載が見当たりませんでした。亀岡市観光協会の施設紹介には「天然砥石の研ぎ体験(無料・要予約)」とありますが、これは観光協会側の記述です。無料と断定はせず、予約のついでに聞くのが確実です。
京都亀岡 天然砥石館は別の場所にあります。住所は亀岡市宮前町神前長野15の「森のステーションかめおか」1階で、砥取家の所在地とは離れています。公式サイトには「入館料: 無料」「開館時間: 10:00~16:00」「閉館日: 月・火・水曜日・年末年始」とあり、「天然砥石を身近に感じていただくための体験型博物館」と説明されています。研ぎ講習、オリジナル砥石制作、砥石の研ぎ比べができるとのこと。お知らせに「2026年10月22日より、研ぎ講習およびセルフ研ぎの料金・サービス内容を改定いたします」と出ています。
この二つの関係は、調べた範囲では分かりませんでした。砥取家が運営しているという記述も見つかっていません。同じ亀岡で名前も近いので混ざりやすいのですが、別々に予定を組むものとして扱ってください。
砥取家の天然砥石の使い方と面直し
買うと決めた人向けの話も、一つだけ。天然砥石も人造砥石と同じようにへこみます。石の種類が変わっても、刃物を当てて削れる以上は避けられません。
私が人造砥石で痛い目を見たのもここでした。中砥の真ん中がくぼんだまま研ぎ続けると刃先の角度が一定にならず、研いでも切れ味が戻らなくなります。原因が砥石の平面だと気づくまで、ずいぶん遠回りをしました。数万円の石で同じことをやると、損失の重みが段違いです。
面直し用の砥石は1,273円から手に入ります。ナニワの溝入りタイプ(QA-0160)が定番で、同じ日に在庫を確認しました。石の本体と一緒に予算へ入れておくのが安全です。
ただし、仕上げ砥石の面直しには注意点があります。粗い面直し砥石を当てると、石の表面に深い傷が残って研ぎ肌に出てしまう。#7000以上の石なら、それ相応に細かい面で直す必要があります。この使い分けは砥石の面直しのやり方をまとめた記事で道具ごとに整理しているので、買う前に目を通しておくと失敗が減ります。
へこみに気づく方法も書いておきます。私がやっているのは、研ぐ前に砥石の面へ鉛筆で格子を引いておくやり方です。面直しを当てて格子がいっせいに消えれば平ら。真ん中の線だけ残っていれば、そこが低いということになります。金尺を当てて隙間の光を見る人もいますが、鉛筆なら道具がいらないぶん気楽で、私はこちらに落ち着きました。
頻度については、人造の中砥なら私は研ぐたびに軽く当てています。くぼんでから直すより、毎回30秒かけるほうが結局は早い。天然砥石でどのくらいの間隔が適切なのかは、持っていない私には書けません。ただ、平らでない面では角度が決まらないという理屈そのものは、石の種類が変わっても動かないはずです。
まとめ|砥取家の砥石は家庭に要るか
ここまで書いておいて何ですが、多くの家庭には要らないと思います。
理由は単純で、丸尾山の石は#7000から#9000の仕上げ砥石だからです。仕上げ砥石は、中砥で刃を付け終わった刃先をさらに整えるための道具で、刃を付ける力そのものはほとんど持っていません。切れなくなった包丁をこの石に当てても、切れるようにはならないのです。
もう一つ、使う頻度の問題もあります。家庭で包丁を研ぐのは月に一度あればいいほうで、その一度に仕上げまでかける人はさらに少数です。仕上げ砥石が効くのは、刺身を引くときのように断面の見え方が料理の出来を左右する場面。自分の台所にそれが何回あるかを数えると、答えははっきりします。
台所にステンレスの三徳が1本だけなら、最初に買うべきは中砥の#1000です。ここが研ぎの八割を担っています。私が普段いちばん手を伸ばすのもこの番手で、シャプトンの刃の黒幕 #1000(オレンジ)は2026年10月3日時点で4,249円でした。

そのうえで仕上げまで試したくなったら、人造の#5000〜#6000を一枚足す。順番としてはこうなります。価格はいずれも同日時点のものです。
| 段階 | 商品 | 価格 | リンク |
|---|---|---|---|
| 中砥と仕上げを1枚で | キングホーム砥石 KW-65 #1000/#6000 台付き | 2,900円 | Amazonで見る |
| 仕上げ(安いほう) | キング仕上砥 S-1型 #6000 | 4,348円 | Amazonで見る |
| 仕上げ(研ぎ味重視) | シャプトン 刃の黒幕 #5000 エンジ | 6,468円 | Amazonで見る |
人造の仕上げまでやってみて、それでも物足りないとき。そこが天然砥石を検討する入口です。順番を飛ばして2万円の石から入ると、研げない理由が石なのか腕なのか判断できません。番手ごとの役割分担は砥石の番手の選び方をまとめた記事に書いています。
最後にもう一度まとめます。砥取家は京都・亀岡の丸尾山で天然の仕上げ砥石を掘り続けている採掘元で、粒度は#7000から#9000。棚に並ぶ値段はコッパの11,000円から、別誂品の66万円まで。ただし2026年10月3日に433点の在庫を数えた結果、残っていたのは8万円を超える5点だけでした。入口になるはずのコッパは45点すべてが空。手に入れたいなら、刃物を持って亀岡で試し研ぎをするか、電話・メール・FAXで在庫を聞くことになります。
それでも、知っておく価値はあると思っています。#7000の先に#20000があって、同じ層の石でも一本ずつ手触りが違う。そういう世界があると分かっていると、手元の#1000を当てる角度が少し丁寧になります。在庫が戻った頃に、コッパの一枚くらいは手を出してみるかもしれません。
▼ 包丁のミカタからの無料ガイド配布中



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