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こんにちは、包丁のミカタのコウスケです。静岡で料理歴15年、包丁趣味が高じて柳刃包丁も持っています。ただ、この記事で扱う関孫六の銀寿と金寿については、先に正直に書いておきます。私はどちらも所有していません。持っていない道具の使用感を語るつもりはないので、この記事でやるのは別のことです。貝印の公式サイトと公式オンラインストアに書かれていることを、銀寿と金寿で一行ずつ突き合わせていきます。実はこの作業をやると、ネット上でよく見かける説明が公式と食い違っているのが分かります。「金寿はハガネ、銀寿はステンレス」という整理を見たことがある人も多いはずです。ところが公式のラインナップを開くと、銀寿にもハガネがあり、金寿にもステンレスがあります。つまりその整理は成り立ちません。ここを最初にほどいておかないと、値段の差が何の差なのかがいつまでも見えてきません。読み終わる頃には、自分が買うべきなのがどちらの棚なのか、はっきりしているはずです。
- 「金寿か銀寿か」はグレードの選択で、「ステンレスかハガネか」はそれとは別の2本目の軸
- 公式仕様欄の鋼材名は、銀寿STも金寿STも同じ「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」
- STで素材が分かれるのは柄だけ。本鋼では口金がナイロンと水牛に分かれる
- ハガネの出刃・刺身が欲しいなら、公式ストアの棚には金寿しか並んでいない

関孫六の銀寿と金寿の違いは刃より柄と口金に出る
まず、この記事で使う価格はすべて貝印公式オンラインストアの税込価格です。Amazonや楽天の実勢はここから動きますし、たいていは公式より下で出回ります。それでも公式価格を基準にするのは、シリーズ同士の上下関係が一番きれいに見えるからです。定価の階段は、メーカーが「こっちのほうが上の商品です」と宣言している階段そのものなので、比較の物差しとしては実勢より素直なんですね。では、その階段の高さが何によって決まっているのか。公式の仕様欄と説明文を、銀寿と金寿で並べるところから始めます。
銀寿STと金寿STは公式仕様の鋼材が同じ
いきなり結論めいた話になります。貝印公式オンラインストアで、銀寿STと金寿STの商品ページを開いて材質欄を見比べてみてください。銀寿ST 和包丁 出刃165mmの刃体は「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」。金寿ST 和包丁 出刃165mmの刃体も「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」。同じサイズの出刃で、貝印自身がまったく同じ鋼材名を書いています。
ブランドサイト側の説明文も揃っています。銀寿ST和包丁のページにも金寿ST和包丁のページにも、「高硬度のステンレス鋼を使用することで切れ味の持続性を高めました。またサビにくいためお手入れが簡単です。」という一字一句同じ文が載っています。鋼材の呼び名も、説明文も共通。値段は4割ほど違うのに、です。
ただし、ここから「刃はまったく同じものだ」と結論するのは行きすぎです。鋼材の呼び名が同じでも、熱処理の条件や板厚まで同じだとは公式のどこにも書かれていません。そして硬度の数値については、銀寿・金寿のどちらについても貝印は公表していません。ネット上には硬度を挙げて比較している記事もありますが、出典が示されているものを私は見つけられませんでした。公式が言っていない数字を、公式が言ったかのように書くのはやめておきます。
では公式は何を書き分けているのか。刃まわりで唯一はっきり差がついているのが、刃付けの説明です。銀寿STは「独自の刃付けを施し、鋭い切れ味を実現しました。」の一文で終わります。対して金寿STは、「非常に細かい砥石で刃付けを行うことが可能で、繊細な切れ味を実現。熱による硬度ドロップも回避できるので、高硬度を維持しながら刃付けを行うことが可能です。」と、工程の中身まで踏み込んで書いています。
言葉の量が多いほうが偉い、という話ではありません。ただ、メーカーが自社サイトで工程を具体的に語るときは、そこに説明する価値があると判断しているケースが多い。細かい砥石を使えること、刃付けのときに熱で硬度を落とさずに済むこと。この2点を金寿STだけに書いているのは、読み手として受け取っておいていい情報だと思います。
ここまでで押さえること
公式仕様欄の鋼材名は、銀寿STも金寿STも「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」で同じ。刃体の説明文も同一。書き分けられているのは刃付けの説明の細かさで、硬度の数値はどちらも公表されていない。
キャッチコピーの温度差も分かりやすいです。銀寿STは「鋭い切れ味が持続、サビにくいステンレス製。自然な風合いの天然木ハンドルを採用したシリーズ。」。金寿STは「ワンランク上の切れ味と耐久性を備えた逸品。」。前者は素材と手入れのしやすさを説明していて、後者は格を語っています。売り方としてどちらが上に置かれているかは、この一行だけでも伝わってきますね。そしてその格の中身は、次に見る柄のところで具体的になります。
金寿STの柄は積層強化木の八角ハンドル
公式が銀寿STと金寿STではっきり別の文章を書いているのが、柄です。金寿ST和包丁のページには、「高級感があり強度にも優れた積層強化木を使用。手にフィットする八角形状のハンドル。」とあります。素材と形状、両方を指定して説明しています。
積層強化木というのは、薄い木を樹脂で貼り合わせて固めた材料です。無垢の木に比べて水を吸いにくく、狂いにくい。和包丁の柄が傷むときの典型は、水を吸って膨らんだり乾いて縮んだりを繰り返すうちに、刃を差し込んである部分がゆるむパターンです。積層強化木はそこに強い素材として、家庭用から業務用まで幅広く使われています。
そしてもう一つが八角形状です。和包丁の柄には丸、小判、栗、八角といった断面の形があって、八角は面が多いぶん手のなかで向きが決まりやすいという性格があります。片刃の和包丁は、刃の向きが少しでも狂うと切り口が斜めに入ってしまう道具です。刺身を引くときのように、刃を長く動かしながら向きを保ち続ける作業では、握った瞬間に向きが決まる柄はそれだけで扱いやすくなります。柄の形は見た目の趣味の話に見えて、実際には切り口に直結します。
ブランドサイトには、金寿STだけが持っている口金の説明もあります。「刃体は樹脂との同時成型により刃と口金部の境目に隙間がなく衛生的。独自の接合方法でより高い耐久性を実現させました。」という一文です。口金というのは刃と柄のつなぎ目に入る輪っかの部分で、和包丁でいちばん水が入りやすい場所でもあります。ただ、この一文を「銀寿STには口金がない」と読んでしまうと事実からずれます。そこは次の項で、仕様欄まで降りて確かめます。
まとめると、金寿STは柄の素材と形状、そして柄と刃のつなぎ目という、手に触れる側を全部説明している。刃の説明が銀寿STと共通のままなのとは対照的です。関孫六の洋包丁ラインでも似た構図はあって、上位モデルほどハンドルまわりの記述が厚くなります。洋包丁側の整理は関孫六の評判をシリーズ別にまとめた記事にあるので、匠創やダマスカスと迷っている人はそちらもどうぞ。
銀寿STの口金も金寿STと同じナイロン
ここは誤解が広まりやすいところなので、丁寧にいきます。貝印のブランドサイトだけを見ると、金寿STのページには口金の説明があり、銀寿STのページには口金の項目がありません。これだけ読むと「金寿には口金があって、銀寿にはない」と受け取ってしまいがちです。
ところが公式オンラインストアの材質欄まで降りると、話が変わります。銀寿ST 和包丁 出刃165mmの材質は「口金:ナイロン」。金寿ST 和包丁 出刃165mmの材質も「口金:ナイロン」。口金の素材は、銀寿STも金寿STも同じナイロンです。ブランドサイトに説明のセクションがないことと、その部品が存在しないことは、まったく別の話でした。
では金寿STの口金の説明は何を言っているのか。「樹脂との同時成型により刃と口金部の境目に隙間がなく衛生的」というのは、素材の話ではなく作り方の話です。同じナイロンを使っていても、刃と一緒に成型して継ぎ目をなくすかどうかで、水の入り方は変わります。口金は和包丁でいちばん水が入りやすい場所なので、ここに隙間がないことは、洗ったあとの水切れと、長い目で見たときのゆるみにくさに効いてきます。
「金寿は口金の素材がいいから高い」という説明を見かけたら、それは正確ではありません。公式の仕様欄では、ST同士の口金はどちらもナイロンです。差がついているのは素材ではなく、刃と口金をどう接合しているかという説明のほうです。
そして、ST同士の材質欄で本当に素材が分かれているのは柄です。銀寿STは「柄:天然木」、金寿STは「柄:積層強化木」。出刃165mmでも刺身210mmでも、この一行だけがきれいに割れます。刃体の鋼材名は同じ、口金の素材も同じ。仕様欄を上から下まで見比べて、素材として違っているのは柄だけでした。
天然木の柄が劣っているという話でもありません。無垢の木は手に当たったときの感触が柔らかく、濡れた手で握ったときの滑り方も樹脂系とは違います。実際、金寿本鋼と銀寿本鋼はどちらも柄が天然木で、22,000円する上位のハガネ側でも天然木が使われています。つまり貝印のなかで天然木は格下の素材ではありません。シリーズの性格に合わせて使い分けられている、と読むほうが実態に近そうです。
手入れの現実的な話をすると、天然木の柄は濡れたまま放置するのがいちばんよくありません。使ったら柄まで拭いて、風の通るところで乾かす。これだけで寿命がかなり変わります。逆に言えば、そこを面倒だと感じる人は、柄の素材と口金の作りまで説明されている金寿ST側を選んでおくほうが、後々の不満が出にくいということになります。買ったあとの自分がどれくらいまめに扱うか、そこを正直に見積もるのが選び分けの入口です。
本鋼はどちらも鋼に軟鉄を合わせた鍛造
ここからハガネ側の話に移ります。関孫六の和包丁には、ステンレスのSTシリーズとは別に、本鋼と名の付くシリーズがあります。金寿本鋼と銀寿本鋼です。この2つを公式で見比べると、STのとき以上に説明文が揃っています。
刃体については、金寿本鋼も銀寿本鋼も「ハガネに軟鉄を合わせて叩き上げた、強靭な刃身。ハガネの特性の切れ味と研ぎやすさを持つ本格ハガネ和包丁。」という同じ文です。仕上げについても、両方とも「耐久性と切れ味にこだわりを持ち、熟練の職人の手により、一本一本丁寧な仕上げになっています。」で共通しています。柄もどちらも天然木です。
鋼に軟鉄を合わせる、というのは和包丁の伝統的な作り方です。硬いけれど欠けやすいハガネを刃の側に、粘りのある軟鉄を背の側に置いて、鍛接して一体にする。硬い部分だけで包丁を作ると刃こぼれが怖いし、柔らかい部分だけでは切れ味が出ない。両方のいいところを一本にまとめる構造です。研ぐときにハガネの層だけを削ればいいので、研ぎやすさにもつながります。
ハガネ和包丁を選ぶときに知っておきたいこと
- ステンレスと違って、濡れたまま置くと短時間でサビが出る
- 使ったら洗って拭き上げる、という手順が毎回必要になる
- そのかわり研ぎやすく、砥石で手を入れたぶんだけ素直に応えてくれる
「ハガネは錆びるから避けたほうがいいのか」という疑問については、使う頻度で答えが変わると思っています。週に何度も魚をおろす人なら、使って洗って拭くまでが一連の流れになるので、サビはそれほど大きな問題になりません。逆に年に数回しか出番がない包丁なら、しまっている期間のほうが長いわけで、そこで気を抜くとサビが来ます。自分の使用頻度を先に見てから、ハガネかステンレスかを決める。順番としてはこれが安全です。
そして、公式のラインナップを見ると、本鋼シリーズには銀寿と金寿で決定的な差があります。これは値段でも仕様でもなく、そもそも何が売られているかという差です。この記事のなかで実用上いちばん効いてくる話なので、後半であらためて取り上げます。
金寿本鋼はなぜ水牛の角を使うのか
本鋼シリーズで公式が書き分けているのも口金です。ただしこちらはSTと違って、素材そのものが分かれます。公式オンラインストアの材質欄で、銀寿本鋼 菜切165mm 西型は「口金:ナイロン」。金寿本鋼 出刃165mmは「口金:水牛」。同じ会社の同じ和包丁で、樹脂と天然素材にはっきり分かれています。
ブランドサイトの金寿本鋼のページには、その理由まで書かれています。「堅牢で耐久性の高い水牛の角を使用した口金を採用。水牛の角は水を吸うと締まる性質があるため、刃体が抜けにくい特長があります。」
この説明、よく読むと面白いことを言っています。水を吸うと締まるから刃体が抜けにくい、という理屈です。普通に考えると、木も角も水を吸えば膨らむわけで、膨らめば内側に締まる力が働きます。和包丁の口金は刃の根元をぐるりと囲んでいるので、そこが締まれば刃はより抜けにくくなる。台所という濡れる環境を、弱点ではなく機能のほうに使っている設計です。
和包丁の柄まわりで起きる不具合の代表格が、この「刃がゆるむ」です。使い込むうちに、柄を握ってひねったときに刃がわずかに動くようになる。そこまでいくと危ないので、柄を交換するか買い替えるかの判断になります。金寿本鋼が水牛の角を口金に選んでいるのは、その一番の弱点に手を打っているということです。
ここで、金寿STの口金を思い出してみてください。あちらは銀寿STと同じナイロンで、差がついていたのは同時成型という作り方のほうでした。本鋼側では、素材そのものを水牛に変えている。ステンレス側は作り方で、ハガネ側は素材で。アプローチは違っても、金寿というシリーズが一貫して手を入れているのは刃と柄の接合部です。
裏を返せば、銀寿はそこにコストをかけていないシリーズです。これは欠陥ではなく、価格帯に見合った割り切りだと思います。4,950円の菜切に水牛の角の口金を求めるほうが無理があります。問題は、その割り切りが自分の使い方にとって許容できるかどうか。そしてそれは、どの包丁を何に使うかで変わってきます。次は、その差が金額としていくらなのかを見てみましょう。
出刃165mmの2750円差はどこに出るか
同じ形、同じサイズで銀寿と金寿が両方そろっているところを選んで、値段を並べてみます。貝印公式オンラインストアの税込価格で、出刃165mmを比べます。銀寿ST 出刃165mmが6,600円。金寿ST 出刃165mmが9,350円。差は2,750円です。
刺身包丁でも見ておきましょう。銀寿ST 刺身210mmが6,050円、金寿ST 刺身210mmが8,250円。こちらの差は2,200円になります。率で見ると、出刃165mmで約42%、刺身210mmで約36%、菜切165mmで約44%。3割半ばから4割強、といったところです。
そしてここまで読んできた内容を当てはめると、この2,750円の中身がかなり絞れます。出刃165mm同士で公式の材質欄を並べると、刃体はどちらも「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」、口金はどちらも「ナイロン」。素材として違うのは柄だけで、銀寿STが「天然木」、金寿STが「積層強化木」です。そこに、金寿STだけが持つ口金の同時成型という作り方と、細かい砥石を使う刃付けの説明が乗ります。つまり支払っている2,750円の中身は、積層強化木の八角ハンドルと、接合部と刃付けの作り込みだと読めます。
公式税込価格で見る同型比較(2026年9月時点)
- 出刃165mm … 銀寿ST 6,600円 / 金寿ST 9,350円(差 2,750円)
- 刺身210mm … 銀寿ST 6,050円 / 金寿ST 8,250円(差 2,200円)
- 菜切165mm … 銀寿ST 4,950円 / 金寿ST 7,150円(差 2,200円)
シリーズ全体のレンジも面白い形をしています。公式ストアの銀寿の棚は全12件で、いちばん安い出刃105mmの4,400円から、いちばん高い7,150円までが全部この範囲に収まります。対して金寿の棚は全18件で、STが7,150円から業務用の刺身300mmの12,100円まで、本鋼が15,400円から22,000円まで。銀寿のいちばん高い商品と、金寿のいちばん安い商品が、どちらもぴったり7,150円で並びます。そこから上には銀寿が存在しません。
だから予算の考え方はかなりすっきりします。7,000円台のところに壁があって、そこを越えるかどうかで棚が入れ替わる。1万円まで出す気があるなら選択肢は自動的に金寿側になりますし、5,000円前後で収めたいなら銀寿の棚から選ぶことになります。中間で迷う余地はほとんどありません。あとは、自分が買おうとしている包丁が出刃なのか刺身なのかで、この壁を越える価値があるかが変わってきます。そこを次の章で詰めます。
関孫六の銀寿と金寿の違いを用途別に選び分ける基準

ここまでは、公式に何が書かれているかという話でした。ここからは、その情報をもとに実際にどちらを買うかを決めていきます。先に全体像を言っておくと、判断は用途で割れます。出刃と刺身包丁は使い方がまるで違う道具なので、柄や口金にお金を払う意味も変わってくるんですね。そして値段の前に、そもそも選択肢が片方にしかないケースもあります。まずはそこから確認します。
本鋼の出刃と刺身は金寿にしか並ばない
ハガネの出刃か刺身包丁が欲しい、と思って関孫六を見に行った人には、いちばん先に知っておいてほしい事実があります。貝印公式オンラインストアの銀寿の棚には、本鋼が1点しか並んでいません。銀寿本鋼 菜切165mm 西型、4,950円。これだけです。全12件のうちの1件です。
対して金寿の棚には、金寿本鋼が7点あります。出刃が105mm・150mm・165mm・180mmの4サイズ、刺身が210mmと240mm、それに薄刃165mm。価格は15,400円から22,000円の範囲です。公式ブランドサイトの銀寿本鋼のページを開いても、ラインナップとして載っているのは菜切165mm西型のみでした。
ただし、刺身を狙っている人には注意点があります。金寿本鋼 刺身210mm(16,500円)は、公式ストアでSOLD OUTの表示が出ていました。ハガネの刺身包丁を公式の棚で買うなら、いま選べるのは240mm(18,700円)ということになります。
ここは「銀寿の本鋼は廃番になった」と書いてある記事も見かけますが、私はそう言い切りません。公式が生産終了を告知しているのを確認できていないからです。事実として言えるのは、2026年9月時点の貝印公式オンラインストアと公式ブランドサイトに、銀寿本鋼として並んでいるのは菜切165mm西型の1点だけということです。通販サイトには銀寿本鋼の出刃や刺身が出品されていることもありますが、公式の棚にはありません。
この意味するところはシンプルです。ハガネで魚をやりたいなら、関孫六のなかでは金寿本鋼を見に行くしかない。銀寿本鋼と金寿本鋼で悩む、という状況が出刃と刺身では発生しないんです。そして金寿本鋼の出刃165mmは19,800円ですから、STの銀寿出刃165mmの6,600円とは3倍の開きがあります。ハガネにするかステンレスにするかの決断は、シリーズの上下よりずっと大きな金額の分かれ道になります。
ついでに、関孫六の和包丁シリーズ全体も確認しておきます。公式の包丁シリーズ一覧では、和包丁として金寿ST・銀寿ST・碧寿ST・匠創・金寿本鋼・松寿本鋼・銀寿本鋼が並んでいます。碧寿はSTだけ、松寿は本鋼だけ、という構成です。銀寿と金寿で迷っている段階で碧寿や松寿まで見に行くと、比べるものが増えて決まらなくなります。まずは銀寿と金寿の2つで、ステンレスかハガネかを決める。その順番でいくのがおすすめです。
刺身の1本目で金寿STを選ぶ理由
刺身包丁を1本目として買うなら、私は金寿ST側に寄ります。理由は、刺身包丁という道具の動かし方にあります。
刺身包丁は、刃元から切っ先まで一方向に長く引いて使います。三徳のように押したり刻んだりする道具ではなく、刃渡り210mmなり240mmなりを、まっすぐ手前に引ききる。この動きのあいだ、刃の角度がぶれると切り口が波打ちます。断面のツヤは角度の安定でほぼ決まるといっていいくらいです。そして角度を安定させるのは、手のなかで向きが決まる柄です。金寿STが八角形状のハンドルを採用していることは、この動きにそのまま効いてきます。
もう一つが口金です。刺身包丁は出番が散発的で、使ったあと長く置かれることが多い道具です。つなぎ目に水が残ったまましまわれる機会が、毎日使う包丁より多い。口金の素材自体は銀寿STと同じナイロンですが、金寿STが「刃と口金部の境目に隙間がなく衛生的」と説明している継ぎ目の無さは、この状況に効いてきます。刃付けについても、公式は金寿STにだけ細かい砥石の工程を書いています。切り口の美しさで評価される包丁なので、そこに書かれているのは無視しないほうがいいと思います。
具体的な1本としては、関孫六 金寿ST 刺身包丁 210mm(AK1105)が家庭向けの標準形です。公式オンラインストアの税込価格は8,250円ですが、通販ではこれより下で出ていることが多いので、購入前に価格を見比べてみてください。
関孫六 金寿ST 刺身 210mm(AK1105)
- 刃渡り210mm。家庭のまな板と収納に無理なく収まる長さ
- 柄は積層強化木の八角形状。刃の向きが手のなかで決まりやすい
- 刃と口金の境目に隙間を作らない同時成型(公式説明)
- 公式オンラインストアの税込価格 8,250円
刃渡りを240mmや270mmにしたくなる気持ちも分かりますが、家庭のまな板の奥行きを一度測ってから決めてください。引ききる前にまな板から外れる長さだと、結局刃渡り全体を使えません。そもそも刺身包丁を買うべきかどうかから迷っている人は、家にある三徳でサクを切る代用の話を先に読んでもらうほうが、無駄な買い物を減らせます。買わずに済むならそれがいちばん安いので。
出刃なら銀寿STで足りる人が多い
出刃包丁になると、判断が逆に振れます。家庭で使う出刃なら、銀寿STで足りる人のほうが多いと思っています。
出刃の仕事は、頭を落とす、骨を断つ、三枚におろす。刺身包丁のように切り口の美しさを競う道具ではなく、力をかけて構造を壊していく道具です。刃の角度をミリ単位で保つ繊細さより、まな板に叩きつけても平気な頑丈さのほうが求められます。八角柄の向きの決まりやすさは、出刃では刺身ほど決定的になりません。
それに、家庭での出刃の出番はかなり限られます。丸魚を買ってきておろす機会が週に何度もある家は少数派でしょう。年に数回から月に一度くらい、という人が大半だと思います。その頻度で6,600円と9,350円のどちらを選ぶかと聞かれたら、私は差額の2,750円を砥石やまな板に回すほうを勧めます。出刃は分厚い刃で骨に当てる道具なので、切れ味の劣化も欠けも普通に起きます。研げる環境があるかどうかのほうが、シリーズの上下より結果を左右します。
サイズは150mmか165mmが家庭向けの現実的なレンジです。アジ、サバ、カマス、タチウオあたりの中型魚までなら、この長さで困りません。銀寿ST 出刃150mmが6,050円、出刃165mmが6,600円。楽天で銀寿ST 出刃165mmの取り扱いを見ると、店によって価格に幅があるのが分かると思います。刺身のほうを銀寿でそろえたい人は、銀寿ST 刺身210mmの取り扱いも同じように見比べられます。
そもそも出刃は必要か
切り身と刺身用のサクしか買わない家庭なら、出刃の出番はほぼありません。買う前に一度立ち止まりたい人は、出刃包丁が本当に必要な人と不要な人の線引きを先に読んでみてください。
逆に、金寿ST側の出刃を選ぶ理由がある人もいます。釣りをしていて丸魚を持ち帰る頻度が高い人、家族で交代して使う人、濡れた手で長時間握る人。使用時間が長くなるほど、柄と口金の差は積み上がっていきます。頻度が高い道具にお金をかけるのは、いつでも正しい判断です。
左利き用が買えるのはどちらのライン
左利きの人にとっては、ここが最大の分かれ目になるかもしれません。和包丁は片刃なので、右利き用をそのまま左手で使うと切り口が斜めに入っていきます。だから左利き用は選択肢の問題ではなく、必需の問題です。
公式オンラインストアで確認したところ、2026年9月時点の在庫状況ははっきり分かれていました。銀寿ST側は、出刃150mm 左利き用が7,150円、刺身210mm 左利き用が7,150円で、どちらも通常どおり並んでいます。金寿ST側は、出刃150mm 左が10,450円で購入できる状態。刺身210mm 左は10,450円で、SOLD OUTの表示が出ていました。
左利き用の状況(貝印公式オンラインストア・2026年9月時点)
- 銀寿ST 出刃150mm 左利き用 … 7,150円・購入可
- 銀寿ST 刺身210mm 左利き用 … 7,150円・購入可
- 金寿ST 出刃150mm 左 … 10,450円・購入可
- 金寿ST 刺身210mm 左 … 10,450円・SOLD OUT 表示
つまり、左利きで刺身包丁を探している場合、公式の棚で今すぐ買えるのは銀寿ST側ということになります。前の項で「刺身なら金寿ST」と書きましたが、そもそも在庫がなければ選べません。入荷を待つか、銀寿STで始めるか。私は、使いたい時期が決まっているなら銀寿STで始めることを勧めます。包丁は使ってみて初めて自分の好みが分かる道具ですし、1本目で全部を当てにいく必要はないからです。
それから、左利き用は右利き用より1,100円から2,200円高く設定されています。銀寿STは出刃150mm・刺身210mmとも、右利き用6,050円に対して左利き用7,150円で、差は1,100円。金寿STは同じ2サイズが8,250円に対して10,450円で、差は2,200円です。生産数が違うので仕方のない部分ですが、予算を組むときは頭に入れておいてください。左利き用は在庫の動きが読みにくいので、見つけたときに押さえるほうが結果的に早いです。
なお、通販で和包丁を買うときは、商品名に「左」「左利き用」が入っているかを必ず確認してください。型番だけだと右利き用と見分けがつかないことがあります。ここを間違えると、届いてから気づくことになります。

関孫六の銀寿と金寿の違いのまとめ
長くなったので、公式で確認できたことと、そこから導いた判断を整理しておきます。
- 「金寿か銀寿か」はグレードの軸、「STか本鋼か」は素材の軸。この2つは別物で、銀寿にもハガネがあり、金寿にもステンレスがある
- 公式仕様欄の鋼材名は、銀寿STも金寿STも「モリブデンバナジウムステンレス刃物鋼」で同じ。ただし熱処理や板厚まで同じとは書かれていないので「刃が同じ」とは言えない
- ST同士で素材が分かれるのは柄だけ(天然木と積層強化木)。口金はどちらもナイロンで同じ
- 金寿が手を入れているのは刃と柄の接合部。STでは同時成型という作り方、本鋼では口金の素材そのもの(銀寿本鋼はナイロン、金寿本鋼は水牛)
- 同型比較の差は出刃165mmで2,750円、刺身210mmで2,200円(いずれも公式税込)
- ハガネの出刃・刺身は、公式の棚では金寿本鋼にしか並んでいない(ただし刺身210mmはSOLD OUT表示)
- 刺身包丁は柄と口金が効くので金寿ST、家庭の出刃は出番の少なさを考えて銀寿STが現実的
- 左利き用の刺身210mmは、公式で今すぐ買えるのが銀寿ST側
調べていていちばん意外だったのは、貝印が銀寿STと金寿STに同じ鋼材名を書いていることでした。値段が4割ほど違うのだから刃材も違うだろう、と思って仕様欄を開いたからです。刃体の鋼材名は同じ、口金も同じナイロン、違うのは柄だけ。ブランドサイトのほうは柄と口金の説明がびっしり書いてある。メーカーが何を売りにしているかは、商品ページのどこに文字数を使っているかにけっこう素直に出ます。
いっぽうで硬度の数値は、銀寿についても金寿についても貝印は公表していません。この記事で硬度を出さなかったのはそのためです。どこかで見かけた数値を並べれば、比較記事としてはもっともらしく見えるでしょう。でも出典のない数字で買い物を決めてもらうくらいなら、「公式は言っていない」と書くほうが誠実だと思っています。買ったあとに後悔しない材料だけを渡したいので。
最後にもう一度だけ。ここに書いた価格はすべて貝印公式オンラインストアの税込価格で、2026年9月時点のものです。通販の実勢はここから動きますし、公式より安く出ていることも珍しくありません。シリーズの上下関係を確かめる物差しとして使って、実際の支払額はご自身で見比べてみてください。
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