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さんまは、家にある三徳包丁で十分さばけます。出刃が要るのは、骨ごと筒切りにするときだけです。
静岡で料理歴15年のコウスケです。9月に入って店先にさんまが並びはじめると、毎年きまって「これ、自分でおろせるのかな」と包丁を眺める人がいます。私も最初はそうでした。魚をさばくと聞くと、まず出刃包丁を買わなきゃいけない気がしてくるんですよね。
でも、さんまに限って言えばその心配はほとんど要りません。細身で、背骨も柔らかい。太い骨を断ち割る場面が出てこないので、普段キャベツを刻んでいる三徳包丁がそのまま使えます。逆に言うと、包丁の種類より「その包丁が切れるかどうか」のほうがはるかに結果を左右します。この記事では、そこを軸にさんまのさばき方を組み立てていきます。
- さんまに出刃包丁が要る場面と、三徳で足りる場面の線引き
- 頭を落とす位置、内臓の扱い、骨と皮の始末という順番の理由
- 身が潰れる・生臭くなるといった失敗が、包丁側の問題であること
- 塩焼きで食べるなら、そもそもさばかなくていいという引き算
さんまのさばき方は包丁1本で足りる
まず、道具の話から先に片づけます。ここがはっきりしないまま手を動かすと、途中で「やっぱり出刃を買ってからにしよう」と手が止まるからです。さんまという魚の骨格と、家庭で作る料理の範囲を突き合わせると、必要な道具はかなり絞り込めます。
さんまに出刃包丁は本当に必要か
結論から言えば、家庭でさんまを食べる範囲なら出刃包丁はほぼ出番がありません。出刃という包丁は、刃が厚く重く作られていて、その重さで太い骨を断ち割るための道具です。鯛の頭を割る、ぶりのカマを落とす、といった場面で本領を発揮します。さんまには、そういう硬い部位が存在しません。
さんまの背骨は、指で押すとしなるくらいの細さです。頭の付け根も、包丁を当てて体重をわずかにかければ落ちます。刃の厚みで叩き割る必要がないので、薄い刃でも困りません。むしろ出刃は刃が厚いぶん、細い身に入れると身を押し広げてしまい、三枚におろすときには扱いにくく感じることさえあります。
私自身、堺孝行の出刃を1本持っていますが、さんまを扱うときに手が伸びたことはありません。取り回しの軽い包丁のほうが、細い魚には素直に入っていくからです。魚をさばく=出刃、という思い込みだけで1本買い足すのは、順番として惜しいと思います。
出刃を買うべきかどうかで迷っている人は、出刃包丁はいらない?家庭で本当に必要な人と不要な人の線引きのほうで判断軸をまとめています。この記事はその実践編にあたる内容です。
ではどこからが出刃の領域かというと、骨ごとぶつ切りにする「筒切り」です。さんまを3〜4等分に輪切りにして煮付けや唐揚げにする切り方で、ここだけは背骨を真横から断つことになります。三徳でもできなくはありませんが、刃先が骨に当たったまま押し切ると刃が欠ける危険があります。年に何度も筒切りをするなら、そのときは出刃を検討する価値があります。
逆に、塩焼き・開き・三枚おろしまでなら、包丁の刃が骨を横断する場面は一度も来ません。さんまのさばき方で出刃が要るかどうかは、「骨を断つか、骨に沿わせるか」で決まります。この一文だけ覚えておけば、魚が変わっても判断できるようになります。
塩焼きなら丸のまま焼けばいい
いきなり引き算の話をします。さんまを塩焼きで食べるなら、包丁を使う必要はほとんどありません。水で洗って水気を拭き、塩をふって焼く。それで完成します。さばき方を調べに来た人に言うことではないかもしれませんが、ここを飛ばして手順だけ増やすのは違うと思うので、先に書いておきます。
さんまの塩焼きは、内臓ごと焼いて、あのほろ苦いところまで食べるのが定番の食べ方です。頭も内臓も落とさないほうが身の水分が逃げにくく、焼き上がりもふっくらします。つまり塩焼きに関しては、包丁を入れないことが一番おいしい選択になります。
それでも包丁を使う場面があるとすれば、内臓が苦手な人が事前に取り除きたいときと、コンロの魚焼きグリルに1尾が入りきらないときの2つです。前者は頭を落として腹を開き、後者は半分に切ります。どちらも数十秒で終わる作業なので、身構える必要はありません。
私が塩焼きのときにやるのは、焼く前に表面の水気をしっかり拭くことくらいです。表面が濡れていると皮が網にくっつきますし、皮が破れると脂が落ちて味が痩せます。包丁の出番はなくても、丁寧にやると差が出る部分はあるんですよね。
さばく必要が出てくるのは、刺身・蒲焼き・唐揚げ・つみれといった「焼く以外」に進んだときです。料理を先に決めてから包丁を持つと、どこまで手を入れればいいかが自然に決まります。
この順番で考えると、さんまのさばき方は「全部覚えないといけない技術」ではなくなります。今日作りたいものに必要なところまでやればいい。三枚おろしまで到達しなくても、頭と内臓を落とせるようになるだけで料理の幅はかなり広がります。
グリルに入らなくて半分に切る場合は、腹の真ん中あたりで切ると身の量が揃います。頭寄りで切ると片方だけ極端に短くなって、焼き時間が合わなくなるからです。ここでも包丁を当てるのは一度きり。細かい技術というより、置き場所を決めるだけの話です。

頭を落とす位置はヒレのすぐ後ろ
ここから手順です。最初の一手は頭を落とすこと。包丁を当てる位置は、胸ビレのすぐ後ろです。ヒレの付け根に沿うように刃を置いて、まっすぐ下ろせば落ちます。位置が決まっていれば力はほとんど要りません。
なぜヒレの後ろなのかというと、ここより頭側には食べる身がほとんどないからです。逆にここより尾側に寄せると、いちばん脂がのっている肩の部分を捨てることになります。数ミリの違いですが、1尾あたりで見ると身の量がはっきり変わります。もったいないので、迷ったら少し頭寄りに当てるくらいがちょうどいいです。
出刃の記事のほうでは「硬いところはキッチンばさみに逃がす」と書きました。あれは頭の骨が太い魚を三徳で扱うときの避難路で、さんまには当てはまりません。背骨が細いので、はさみに持ち替えるより包丁のまま落とすほうが速く、切り口もきれいです。魚が変われば道具の使い分けも変わる、というだけの話です。
刃を入れるときは、ノコギリのように前後に動かさないほうがきれいに切れます。刃元から刃先までを一度だけ引くように使って、背骨のところで少し体重をかける。それで細い背骨は切れます。動かす回数が増えるほど、切り口が毛羽立って身がほぐれてしまいます。
切り落とす前に、まな板の上に一枚キッチンペーパーを敷いておくと後が楽です。さんまは細くて転がるので、ペーパーがあると滑り止めになりますし、内臓を出したあとの汚れもそのまま包んで捨てられます。私はこの一手間を覚えてから、片づけの気が重くならなくなりました。
なお、うろこはほとんど気にしなくて大丈夫です。さんまのうろこは薄くて剥がれやすく、私が買ってくるものは店に並んだ時点でほぼ付いていません。もし銀色の粒が残っていたら、包丁の刃先を寝かせて尾から頭へ軽く撫でれば取れます。専用の道具を出すほどの作業ではありません。
魚の置き方は、右利きなら頭を左、腹を手前にするのが基本です。この向きだと、頭を落としたあとそのまま腹に刃を入れられて、持ち替えが減ります。左利きなら左右を入れ替えてください。向きが決まっていないと、工程ごとに魚を回すことになり、そのたびに手が汚れて台所が散らかります。
もうひとつ、冷凍のさんまを使うときは完全に解凍しきらないほうが扱いやすいです。半解凍で身に少し芯が残っているくらいだと、包丁を入れても崩れにくい。完全に戻してしまうと身がゆるんで、頭を落とすときですら切り口がつぶれます。急ぐときほど、冷蔵庫でゆっくり戻すほうが結果は良くなります。
内臓とわたの処理で味が決まる
頭を落としたら、次は腹です。肛門から頭側に向かって、腹の皮を浅く割きます。深く刺し込むと中の内臓を切ってしまい、まな板も身も汚れます。刃先だけを使って、皮一枚を裂くくらいの感覚で入れるのがコツです。
腹が開いたら、内臓を刃先でかき出します。このとき背骨に沿って赤黒い血合いが残るので、そこも一緒に落とします。血合いは残しておくとくさみの原因になりますし、火を通したあとも口に残ります。流水を当てながら指の腹でこすると、意外なほどあっさり取れます。
洗ったあとが肝心で、水気は必ず拭き取ります。濡れたまま次の工程に入ると、包丁が滑って三枚おろしの精度が落ちますし、水っぽさが身に残ります。キッチンペーパーで腹の中まで拭く。この一手間を省くと、あとの作業がすべて雑になります。
生で食べる予定があるなら、内臓の処理は買ってきたらすぐに済ませてください。厚生労働省は、アニサキス幼虫について「魚を購入する際は、より新鮮な魚を選びましょう。また、丸ごと1匹で購入した際は、速やかに内臓を取り除いてください」と案内しています。あわせて「目視で確認して、アニサキス幼虫を除去してください」とも示されています(厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」)。
同じページには「一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません」という記述もあります。酢締めにすれば安心、という思い込みは持たないほうがよさそうです。
では何が効くのかというと、同じページの事業者向けの案内に条件が示されています。「冷凍してください。 (-20℃で24時間以上冷凍)」「加熱してください。(70℃以上、または60℃なら1分)」の2つです。家庭用の冷凍庫がこの温度に届くかは機種によりますし、業務用を前提にした数字でもあります。私は、生で食べたい日は刺身用として売られているものを選び、そうでなければ蒲焼きや唐揚げのように火を通す料理に切り替えるようにしています。
味の面から言うと、内臓とわたをどう扱うかで、そのさんまの印象はほとんど決まります。焼くなら残す、生や蒲焼きにするなら早めに取る。この判断を最初にしておけば、あとの工程は淡々と進みます。
筒切りと開きはどちらが難しい?
さんまの切り方には難易度の段差があります。ざっくり並べると、筒切りがいちばん単純で、開きが中くらい、三枚おろしがいちばん手数が多い。ただし「単純=包丁に優しい」ではないところが、ややこしいところです。
筒切りは、頭と内臓を取ったさんまを3〜4等分に輪切りにするだけです。作業としてはこれ以上ないほど簡単ですが、背骨を真横から断つので刃には負担がかかります。三徳でやるなら、刃の真ん中あたりを骨に当てて、押しつけるのではなく前へ滑らせるように切る。真上から叩き下ろすと、刃先が骨に噛んで欠けることがあります。
開きは、腹側から背骨まで包丁を入れて、開いた状態にする切り方です。干物や蒲焼きにするときの形ですね。骨に沿って刃を進めるだけなので刃への負担は小さく、失敗しても味は変わりません。形が多少いびつでも、焼いてしまえばわかりません。最初に練習するならここが向いています。
三枚おろしは、背骨を挟んで身を2枚に分ける作業です。骨に沿わせ続ける必要があるので、包丁の角度を一定に保つ集中力が要ります。ただし包丁への負担という意味では最も軽い。切れる包丁さえあれば、力はほとんど使いません。
開きにも腹から割く方法と背から割く方法がありますが、家庭でさんまを扱うなら腹側からで問題ありません。腹は内臓を出すためにどのみち開けるので、そのまま背骨まで進めればいいだけです。背から割く方法もありますが、包丁を入れる回数が増えるだけで、家で焼いて食べるぶんには仕上がりに差が出ません。迷ったら腹側からで大丈夫です。
つまり難しさの順番と、包丁を傷める順番は逆になります。手が簡単なほど刃には厳しく、手が難しいほど刃には優しい。この関係を知っておくと、どこで慎重になればいいかがわかります。筒切りは雑にやらない、三枚おろしは焦らない。それだけです。
さんまのさばき方でつまずく所と包丁
ここからは、実際にやってみたときに引っかかる場面を順に見ていきます。身が崩れる、皮が破れる、手が生臭くなる。どれもよくある失敗ですが、原因の多くは技術というより道具の状態にあります。

三枚おろしと大名おろしの使い分け
さんまを三枚にする方法には、大きく2通りあります。ひとつは背骨の上に刃を入れて頭から尾まで一気に滑らせる大名おろし。もうひとつは腹側と背側から少しずつ刃を入れて、最後に骨から外す本来の三枚おろしです。大名おろしは速いかわりに骨へ身が残り、三枚おろしは手数が多いぶん無駄が出ません。名前は仰々しいですが、やっていることは「一気に通すか、少しずつ寄せるか」の違いだけです。さんま以外の魚でも同じ判断の軸が使えます。魚の種類によって三徳でどこまで通るかを知りたい場合は、魚種ごとに境界線を引いた記事も参考にしてください。
家庭でさんまを2〜3尾おろすくらいなら、私は大名おろしを選びます。理由は単純で、手数が少ないほど身が崩れないからです。さんまの身はやわらかく、包丁を往復させるたびに繊維がほぐれていきます。1回で通しきったほうが、結果的にきれいな断面になります。
ただし大名おろしは、包丁が切れないと途端に成立しません。刃が骨の上を滑らず、途中で止まって身を押し潰すからです。切れない包丁で速いやり方を選ぶと、いちばん悲惨な仕上がりになります。そこだけは正直にお伝えしておきます。
刃を進めるときの感覚は、骨の上をカリカリと擦っていく手ごたえです。この音と振動が続いているうちは、刃が正しい高さを走っています。手ごたえが消えたら刃が身のほうへ逃げているので、いったん止めて角度を戻します。目より、手のほうが正確に教えてくれます。
では、手数の多い三枚おろしはいつ使うのかというと、骨に残る身をできるだけ減らしたいときです。大名おろしは速いかわりに、背骨の上に身がそこそこ残ります。1尾か2尾なら気になりませんが、まとめておろしてつみれや炊き込みご飯にするなら、その差は無視できません。骨に残った身も、スプーンでこそげば十分に使えます。
刃を入れる向きは、尾側から始めても頭側から始めてもかまいません。私は頭側の切り口から入れるほうが好きです。切り口の断面を見れば背骨の高さがわかるので、最初の一手で刃の位置を決めやすいからです。尾側から入れると、最初のうちは背骨の位置を手探りすることになります。
包丁ごとの得手不得手を知りたい人は、包丁の種類をまとめた記事のほうで全体像をつかんでおくと、なぜ三徳がこの作業に向くのかが腑に落ちると思います。
小骨と背骨はどこまで取るべきか
三枚におろしたあと、身にはまだ骨が残っています。腹側にある平たい腹骨と、身の真ん中を頭から尾へ走る細い小骨です。この2つをどこまで取るかは、料理によって変えていいところです。
腹骨は、包丁を寝かせて薄くそぎ取ります。刃を立てると身まで一緒に持っていかれるので、まな板と刃の角度を10度くらいに保つイメージです。ここは全部の料理で取っておいたほうがいいところで、残っていると口当たりがはっきり悪くなります。
真ん中の小骨は、指の腹で身の中央をなぞると位置がわかります。頭側から尾側へ触っていくと、コリコリと引っかかる列があります。これを骨抜きで、頭のほうへ向かって引き抜きます。斜めに引くと身が裂けるので、骨の生えている向きに沿って抜くのがコツです。
ここからが判断のしどころで、蒲焼きや唐揚げなら小骨は抜かなくても気になりません。火を通すとやわらかくなりますし、衣やタレのほうが口当たりを支配します。逆に刺身にするなら全部抜きます。生のままだと、細い骨でもはっきり舌に触ります。
小さい子どもが食べるかどうかも判断材料になります。うちで作るときは、食べる人の顔を思い浮かべてから抜くか決めています。全部きれいに抜くのが正解ではなく、料理と食べる人に合わせて手を抜く場所を決める。そのほうが台所は続きます。
道具についても一言。専用の骨抜きがなければ、化粧用の毛抜きでも代用できます。ただ、先が細くて尖ったものは身を突き刺してしまうので、先端が平らで幅のあるタイプのほうが向いています。魚を扱う頻度が上がってきたら、数百円の骨抜きを1本用意しておくと作業が一気に楽になります。
もうひとつの逃げ道が、小骨ごと刻んでしまうことです。なめろうやつみれにするなら、小骨は包丁で叩くうちに気にならなくなります。抜くのが面倒な日は、抜かなくていい料理に寄せる。骨との付き合い方は、抜く技術より料理の選び方で解決できる場面が多いと思っています。
皮が破れるなら包丁の背を使う
刺身にするときの最後の関門が、皮を引く作業です。さんまの皮は薄くて、途中でちぎれやすい。ここで失敗して形が崩れると、せっかくおろした身が台無しになった気分になります。
やり方としては、身を皮目が下になるように置いて、尾側の端で皮と身のあいだに刃を少し入れます。そこで出てきた皮の端を指でつまみ、包丁は動かさずに皮のほうを引く。包丁を前へ進めるのではなく、皮を手前に引っぱるイメージです。
それでも破れるときは、包丁の刃ではなく背を使ってみてください。背は当然切れないので、皮を切ってしまう心配がありません。皮をまな板に押しつけながら身を剥がしていく感覚になり、力加減が多少雑でも成立します。私も、さんまのように皮の薄い小魚ではこの方法を使います。
包丁の刃で引く場合は、刃をまな板と平行に近いところまで寝かせるのが前提です。少しでも角度がつくと、そこで皮を切り抜いてしまいます。角度を保つのが難しいと感じるなら、無理をせず背に切り替えたほうが結果は良くなります。
下準備でも差がつきます。おろした身をしばらく冷蔵庫で冷やしておくと、身が締まって皮を引きやすくなります。常温でだらんとした身は、引っぱった側から伸びてしまって刃が入るところが定まりません。おろしてすぐに皮を引かず、5分でも冷やす。それだけで成功率が上がります。
ちなみに、皮を引かずに炙るという逃げ道もあります。皮目をコンロやバーナーで焼いてから切ると、皮の食感が変わって気にならなくなります。皮引きが苦手なら、そもそもやらない料理に寄せてしまうのも立派な選択です。
ひとつ、はっきり線を引いておきます。ここまでの話は、丸のさんまを自分でおろして、細長い身から薄い皮を剥がす場合に限った話です。スーパーで買ってきた厚みのあるサクの皮を引くとなると、話が変わります。刃渡りの短い三徳では途中で刃が浮いて身を削りやすく、私はおすすめしていません。サクをどう扱うかは、刺身包丁は本当にいらないのか(三徳での代用と限界)のほうで、できることとできないことを分けて書いています。
まな板と手はなぜ生臭くなるのか
魚をさばいたあと、まな板と手にくさみが残る。これが嫌でさんまを避けている人、けっこういると思います。原因はだいたい決まっていて、内臓と血合いの汁が木やプラスチックの表面に染みることです。
だから対策も単純で、汁を直接まな板に触れさせないようにします。私はまな板の上にキッチンペーパーを敷き、その上でさんまを扱います。内臓を出したらペーパーごと丸めて捨て、新しいものに替える。これだけで、まな板に残るにおいは大幅に減ります。
洗うときの水温も効きます。魚の脂とたんぱく質は、いきなり熱いお湯をかけると固まって表面に貼りつきます。先に水で流してから洗剤を使い、最後にお湯というのが順番です。逆をやると、いつまでもぬめりが取れません。
包丁も同じで、作業の途中で一度洗います。刃に内臓の汁がついたまま身を切ると、そのくさみを身にすり込むことになります。頭と内臓を処理したら、いったん包丁と手を洗ってから三枚おろしに入る。工程を分けるだけで、仕上がりの香りがはっきり違います。
まな板の材質によっても残り方が変わります。木のまな板は表面に細かい傷がつきやすく、そこに汁が入り込むと洗ってもにおいが抜けにくい。プラスチックのほうがにおいは残りにくいですが、こちらも傷が深くなると同じことが起きます。魚の日だけ使い捨てのシートを敷く、という割り切り方は理にかなっています。
手のにおいは、ステンレスのシンクや包丁の腹に手をこすりつけながら水で流すと落ちやすくなります。それでも残るときは、レモンの切れ端をこするのが手っ取り早いです。包丁自体の洗い方や置き場所は、包丁の洗い方をまとめた記事のほうに寄せてあります。魚をさばく日は、この習慣がいつも以上に効きます。

切れない包丁だと身が潰れて崩れる
ここまで手順の話をしてきましたが、実際にうまくいくかどうかを決めているのは、たぶん包丁の切れ味です。さんまの身はやわらかいので、刃が切っていないぶんを圧力で押し切ることになり、繊維が潰れます。断面が白くにじんだり、身が骨から剥がれるようにボロっといくのは、たいていこれが原因です。
切れる包丁だと、刃を置いて引くだけで身が離れていきます。力を入れる場面がないので、角度も安定します。三枚おろしが下手なのではなく、包丁が切れていないだけ、というケースは本当に多いです。私も昔、自分の腕のせいだと思い込んで何尾も無駄にしました。
だから、さんまをさばく日は先に研ぐことをおすすめします。中砥石で数分でも構いません。トマトを置いただけで刃が入るくらいになっていれば、さんま程度の身はまったく抵抗になりません。研ぐ習慣がまだない人は、簡易シャープナーを一度かけるだけでも違います。
刃渡りについて言うと、さんまには170mmから180mmくらいの三徳が扱いやすいです。私が買う店に並ぶさんまは30cm前後のものが多く、150mm台の小さめの包丁だと、三枚におろすときに刃を何度も継ぎ足すことになります。継ぎ足すたびに切り口が段になり、そこから身が崩れます。180mmあれば、頭から尾までを一度で通せます。
私はミソノの牛刀を長く使っていて、この会社の刃付けの素直さが気に入っています。同じメーカーで手を出しやすいのが、モリブデン鋼の三徳180mmです。ステンレス系なので魚を扱ったあとも錆びにくく、家庭の手入れの範囲に収まります。三徳としては少し長めなので、細長い魚には特に向いています。
さんまを含めて長めの魚を扱うことが増えそうなら、刃渡り180mmの三徳が1本あると作業が一度で済みます。Misono モリブデン鋼 三徳庖丁 No.581/18cm をAmazonで見る
もちろん、今使っている包丁を研ぐだけで足りる人も多いはずです。買い替えを考える段階になったら、価格帯ごとの違いを1万円前後の包丁の記事にまとめてあるので、そちらを見てから決めても遅くありません。道具を増やす前に、手元の一本を切れる状態に戻す。順番としてはそちらが先です。
まとめ さんまのさばき方と包丁の話
整理します。さんまのさばき方に、出刃包丁は基本的に要りません。必要になるのは骨ごと筒切りにするときだけで、塩焼き・開き・三枚おろしまでは家にある三徳包丁で通せます。刃が骨を横断するのか、骨に沿って進むのか。判断の軸はそれだけです。
手順としては、胸ビレのすぐ後ろで頭を落とし、腹を浅く割いて内臓と血合いを流し、水気を拭いてから骨に沿って身を外す。生で食べるなら内臓は買ってきてすぐ取り、目で確認する。この順番さえ守れば、あとは料理に合わせてどこまでやるかを決めるだけです。
そして、うまくいかないときは腕より先に刃を疑ってみてください。身が潰れる、皮が破れる、断面がにじむ。これらの多くは切れ味で説明がつきます。さばく前に数分研ぐだけで、同じ手順が別物のようにうまくいきます。
塩焼きで食べるなら、包丁を入れずに焼くのがいちばんおいしい。そう言い切れることも、この記事で伝えたかったことのひとつです。全部さばけるようになる必要はありません。今日食べたいものに必要な分だけ手を動かせば、それで十分です。
道具をそろえる順番も、ここまで読んでもらえればはっきりしたと思います。出刃を買い足すより先に、今の三徳を切れる状態に戻す。それでも物足りなければ、刃渡り180mmの三徳に替える。出刃が候補に上がるのは、筒切りを何度も作るようになってからで間に合います。
私の感覚では、さんまが手頃な値段で並ぶ時期はそれほど長く続きません。せっかくなら、去年より少しだけ上手にさばいてみる。そのくらいの気持ちで包丁を持つと、秋の台所が楽しくなります。今年の1尾目、よかったら三枚おろしに挑戦してみてください。
うまくいかなくても、それは失敗ではありません。身が崩れたら、そのまま叩いてなめろうにすればいいだけです。形が残らなくても、味は変わりませんから。
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