まな板は木とプラスチックのどっち?手入れと寿命で決める選び方

厚みのある木のまな板と薄い白いプラスチックのまな板を並べた俯瞰 包丁の選び方

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毎日料理して包丁の切れ味を守りたいなら木、洗って乾かす手間を減らしたいならプラスチックです。迷うならプラで十分です。

静岡で料理歴15年のコウスケです。包丁は50本以上を使ってきて、そのぶんまな板も木・プラスチック・ゴムと一通り台所に置いてきました。

まな板の素材を調べ始めると、途中で手が止まると思います。あるページには「木は雑菌が繁殖しやすい」と書いてあり、別のページには「木のほうが衛生的だという研究がある」と書いてある。刃当たりの話も、木はやわらかい、いやプラでもやわらかいものがある、と食い違う。どちらも自信たっぷりに書いてあるので、読めば読むほど決められなくなるんです。

この記事では、その食い違いがどこから来ているのかを、公的な資料とメーカーが自分の名前で出している説明までさかのぼって整理しました。そのうえで「木とプラ、どちらが優れているか」ではなく「あなたの台所ならどちらが続くか」を決められる形にしています。手入れの手間、包丁への当たり、置き場所、料理の頻度。この4つが決まれば答えは自然と片方に寄ります。

  • 「木は不衛生」という通説が、どこの誰の話なのか
  • 包丁の刃当たりで木とプラに本当に差が出るのか
  • 食洗機を毎日回す家で、木という選択肢が残るのか
  • 一人暮らし・家族・料理好き、それぞれの現実的な答え
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まな板は木とプラスチックのどっちが向くか

結論から先に決めてしまうと迷いが減ります。ただしその結論は「どちらが優れているか」では出ません。木とプラスチックは、得意なところと苦手なところが見事にすれ違っていて、片方が全部勝つという構図になっていないからです。まずは比べるべき軸を6つに絞って、そのうちどれがあなたにとって譲れないのかをはっきりさせていきましょう。

木とプラスチックのまな板を斜めから見た厚みの違いの比較

木とプラスチックの違いは6つで決まる

まな板選びで比べるべきことは、実はそんなに多くありません。私が自分で買い替えを繰り返してきて、最後まで残った判断材料は6つでした。刃当たり、手入れの手間、衛生の保ち方、寿命、重さと置き場所、そして値段です。

刃当たりというのは、包丁の刃が着地したときの受け止められ方のことです。柔らかい面ほど刃先が食い込んで止まるので、刃の摩耗が穏やかになります。硬い面だと刃先がわずかに弾かれ、その繰り返しで切れ味が落ちていきます。ここは一般に木が有利とされる部分ですが、後で書くとおり例外がかなりあります。

手入れの手間は、洗い方と乾かし方の自由度です。プラスチックは洗剤で洗って塩素系漂白剤に浸けられる。木はそれができないので、洗剤と熱湯、あるいは粗塩や重曹をすり込むといった別の手順になります。1日3回まな板を使う家で、この差は毎日効いてきます。

衛生の保ち方は、後ろのセクションでまるごと扱います。ここでは「木とプラでどちらが清潔かは、資料によって答えが割れている」とだけ覚えておいてください。むしろ効くのは素材そのものより、傷の深さと乾かし方でした。

寿命は、木のほうが長く使える可能性を持っています。表面を削れば平らな面がまた出てくるからです。プラスチックは削るのが難しく、傷が増えたら交換になります。ただし木は初期費用が高く、削り直しにも手間か費用がかかるので、「長持ちする=安い」とは限りません。

重さと置き場所は、意外と最後に効く条件です。厚みのある木のまな板は1kgを超えるものもあり、シンクで洗うのも、立てて乾かすのも場所を取ります。ワンルームの狭いキッチンだと、これだけで木が脱落することがあります。

6つのうち、あなたが絶対に譲れないものはどれでしょうか。それが刃当たりと寿命なら木、手入れと置き場所ならプラスチックです。値段は最後に効いてくる条件で、最初の決め手にはなりません。

木のまな板は不衛生というのは本当か

ここが一番もつれているところです。先に答えを書くと、木とプラスチックのどちらが衛生的かは、現時点でどちらとも言い切れません。信頼できる資料が両方向に存在していて、しかもその資料が想定している場面が違うからです。

「木は避けたほうがいい」という側の根拠として一番はっきりしているのは、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルです。器具の洗浄・殺菌の項目に、こう書かれています。

まな板、ざる、木製の器具は汚染が残存する可能性が高いので、特に十分な殺菌に留意すること。なお、木製の器具は極力使用を控えることが望ましい。

(厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」)

公的な文書がここまではっきり書いているので、これが「木は不衛生」という言い方のもとになっています。ただし読み飛ばしてはいけないのが、同じマニュアルの適用範囲です。冒頭にこう書かれています。「本マニュアルは同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する調理施設に適用する。」つまり学校給食や仕出しのような、一度に数百人分を作る現場のための基準なんです。同じ器具を何十人もが交代で使い、洗浄も殺菌も工程として管理する場所と、家族3人分を作る台所とでは、前提がかなり違います。

大量調理施設のマニュアルは、まな板を「80℃で5分間以上の加熱又はこれと同等の効果を有する方法」で殺菌することを求めています。木のまな板でこれを毎日確実にやるのは現実的ではありません。「木は控えたほうがよい」という結論は、この殺菌基準とセットで読む必要があります。

逆に「木のほうが安全かもしれない」という側の根拠として有名なのが、カリフォルニア大学デービス校のDean O. Cliver博士の研究です。博士が公開していた解説文には、木の表面に付けた菌が短時間で回収できなくなること、そして使い込んで包丁傷だらけになったプラスチックについて「plastic surfaces that were knife-scarred were impossible to clean and disinfect manually(傷だらけのプラスチック表面は、手洗いでは清潔にすることも消毒することもできなかった)」と書かれています。傷のないプラスチックはよく洗えるけれど、傷が入った時点で状況が変わる、という指摘です。

ただし、この研究をそのまま「木の勝ち」と読むのも正しくありません。Cliver博士自身が同じ文章のなかで「Although some established scientific laboratories say their results differ from ours(確立された研究機関のなかには、我々とは異なる結果だと言っているところもある)」と書いています。結論が割れていることを、当の研究者が認めているわけです。

ネット上には「木のまな板は科学的に安全と証明されている」と断言する記事も、「木は不衛生だと国が言っている」と断言する記事もあります。どちらも、もとの資料が想定している条件を落として書かれたものです。まな板を買うときにこの論争の決着をつける必要はありません。

では家庭では何を守ればいいのか。厚生労働省が家庭向けに出している食中毒予防の6つのポイントには、素材の指定は出てきません。書かれているのは使い方のほうです。

生の肉や魚を切った包丁やまな板は、洗ってから熱湯をかけたのち使うことが大切です。包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にそろえて、使い分けるとさらに安全です。

(厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」)

素材ではなく、生肉のあとに洗って熱湯をかけること、そして可能なら分けること。家庭でリスクを下げる効き目は、木かプラかを悩むよりこちらのほうがずっと大きいと私は思っています。素材で衛生面を決めようとすると答えが出ませんが、使い方で決めれば今日から実行できます。

包丁の刃当たりが良いのはどっちか

「木は柔らかいから刃にやさしい、プラスチックは硬いから刃こぼれする」。これも至るところで見かける説明ですが、素材名だけで語ると外れます。正確には、硬いか柔らかいかは素材の分類ではなく、その製品が何でできているかで決まります。

木のまな板でよく使われるヒノキ、イチョウ、桐、朴は確かに柔らかい部類です。とくにイチョウと朴は刃先が沈む感触がはっきりあって、包丁を持つ手に返ってくる衝撃が明らかに小さい。ただし木製のカッティングボードとして売られているものには、メープルや山桜のようにかなり硬い木を使ったものがあります。パンやチーズを切るための板で、和包丁でトントンやる前提では作られていません。「木製」と書いてあるだけで買うと、硬い板を掴むことがあります。

プラスチック側も同じで、ポリプロピレンの薄い板は確かに硬く、刃先が弾かれる感触があります。一方でエラストマー系の樹脂を使った柔らかいまな板は、正直なところ安いヒノキの板より刃当たりが穏やかなことすらあります。私が最初に「プラは硬い」という思い込みを崩されたのは、エラストマーの板で鶏もも肉を切ったときでした。刃先が板に食い込んで、そのまま止まる。木でしか味わえないと思っていた感触がそこにありました。

つまり刃当たりで選ぶなら、「木かプラか」ではなく「柔らかいか硬いか」で見るのが正解です。売り場でできる確認方法は2つあります。ひとつは爪を立ててみること。爪の跡がうっすら残る程度に沈むなら、包丁の刃先も同じように受け止めてくれます。もうひとつは厚みです。薄い板は下のシンクや天板の硬さがそのまま伝わるので、素材が柔らかくても刃当たりは硬く感じます。木なら30mm前後、樹脂でも10mm以上あると安定します。

刃当たりを本気で優先するなら、木のなかでも柔らかい樹種か、樹脂のなかでも柔らかい系を選ぶ。素材の名前だけで判断しないのが、いちばん失敗しないやり方です。

食洗機に入れられるのはどっちなのか

食洗機を毎日回している家なら、この項目だけで答えが決まることがあります。そして、ここには面白いねじれがあります。食洗機のメーカーと包丁のメーカーで、言っていることが違うんです。

まず食洗機側。パナソニックのビルトイン食洗機のよくある質問には、木製の食器やまな板が洗えない理由として「木製のお椀やまな板は、水分を含んだ後に短時間で高温乾燥させると、ひずみやひび割れなど変形の原因となります。」と書かれています。さらに続けて「木製のまな板は表面に包丁によるキズがつきやすく、キズに入り込んだ汚れがきれいに落ちない場合がありますので、プラスチック製(耐熱温度90℃以上)をお勧めします。」とあります。食洗機メーカーの立場は明快で、まな板ならプラスチックにしてほしい、というものです。

ところが包丁とまな板を作っている藤次郎のお手入れページには、こう書かれています。「木製まな板もそうですが樹脂製まな板も含めて、食器洗い乾燥機の使用はお勧めしません。急激な温度変化と乾燥により反りや割れなどが発生する可能性があります。」木だけでなく樹脂も、と言っているわけです。

どちらを信じればいいのか。両方とも自分の製品を守る立場から書いています。食洗機メーカーは「うちの機械に入れて壊れないもの」を、まな板メーカーは「うちの板が長持ちする使い方」を基準にしています。実用上は、耐熱温度がはっきり表示されたプラスチックのまな板なら食洗機で問題が出にくく、木は入れないほうが無難、という線引きになります。

もっとも、木にも抜け道はあります。表面に塗装を施して水の出入りを抑え、食洗機で洗えるようにしたヒノキのまな板が市販されています。この手の製品は「食洗機対応」と明記されているので、木の見た目と食洗機の両方を諦めたくない人は、その表示があるものだけを選べば成立します。ただし価格は上がりますし、塗装が効いている間だけの話です。

木を手洗いで使う場合の手順そのものは、慣れればそれほど大変ではありません。使う前に濡らす、使ったら洗って立てて乾かす、この2つが要点です。具体的な洗い方と乾かし方は木のまな板の手入れをまとめた記事に書いてあるので、木を買うかどうか迷っている段階の人ほど、先に読んでみてください。読んだうえで「これは続かない」と思ったなら、その直感のほうが正しいです。

黒ずみと反りと傷はどちらが出やすいか

買ってから1年、2年と使ううちに出てくる不満は、だいたいこの3つに集約されます。黒ずみ、反り、そして傷です。そして木もプラスチックも、全部出ます。出方と原因が違うだけです。

黒ずみは、木の場合はカビと水分の残りが主犯です。洗ったあとに寝かせて置いたり、片面だけ使い続けて水の抜けにムラが出たりすると、黒い点が浮いてきます。プラスチックの黒ずみはもう少し厄介で、包丁の傷の内側にカビや汚れが入り込んで、表面を洗っても届かない状態になっています。プラスチックは塩素系漂白剤に浸けられるので落とせる余地がありますが、それでも取れないところまで来たら傷のほうが深すぎるサインです。落とし方の手順はプラスチックまな板の黒ずみの取り方の記事にまとめてあります。

反りは木のイメージが強いと思いますが、プラスチックも反ります。木は吸った水が抜けるときに縮んで曲がり、プラスチックは熱で変形します。熱湯をかけたり、コンロの近くに立てかけたりすると、じわじわ反っていく。厄介なのは、木の反りはある程度戻せるのに対して、熱で変形したプラスチックはほぼ戻らないことです。素材ごとの直し方と、戻らない反りの見切り方はまな板の反りの直し方の記事で分けて書いています。

傷については、木のほうがはっきり有利です。木の繊維はある程度復元しますし、深くなったら表面を削れば平らな面が戻ってきます。プラスチックの傷は戻らず、削るのも専用のスクレーパーが要るうえ厚みが減っていきます。ここが寿命の差につながっていく部分です。

木もプラも、いちばん効くのは「洗ったら立てて、両面から風が抜ける置き方にする」ことです。私はシンク横にまな板スタンドを置くようになってから、黒ずみで悩むことがほとんどなくなりました。素材を変えるより、置き場所を変えるほうが効くことがあります。

シンク横のスタンドに立てて乾かしている木のまな板

寿命と値段で見る本当のコストの比較

「木は高いけど長持ちするから結局は得」という説明をよく見ます。半分は当たっていますが、半分は条件付きです。ここは数字を並べるより、お金の出ていき方の違いで考えたほうが実感に近いと思います。

プラスチックのまな板は、買うときは安く済みます。数百円から千円台で手に入り、傷が増えたら買い替えるという前提で回せます。かかるお金は「安い金額を数年おきに」という出方をします。捨てるときの罪悪感も小さく、生肉用と野菜用で2枚持つ、という贅沢もしやすい。

木のまな板は、最初にまとまった金額が出ます。厚みのある一枚板だと数千円から一万円を超えるものもあります。そのかわり、表面が荒れたら削って使い続けられる。ここで大事なのが、削り直しはタダではないという点です。自分で紙やすりやかんなでやるなら道具代と時間、業者に頼むなら送料込みの費用がかかります。しかも削っている間、代わりのまな板が必要になります。

つまり木の経済性は「削り直しを自分でやる気があるか」で大きく変わります。自分で削る人にとっては相当に安上がりですし、削る手間が嫌いな人にとっては、高い板を数年で捨てることになりかねません。この分かれ目は自分の性格で決まる部分が大きいので、正直に見積もったほうがいいところです。費用感と、そもそも削るべきか買い替えるべきかの判断はまな板の削り直しと買い替えの記事に整理してあります。

もうひとつ、値段の話でよく抜け落ちるのがサイズです。同じ素材でも、幅が10cm違うだけで価格はかなり変わります。そして小さい板を買って後悔する人は、たいてい1年以内に買い直しています。切ったものが載りきらず、途中でボウルに移す手間が毎回発生するからです。安く済ませたつもりが二度買いになるパターンなので、削るなら素材のグレードではなくサイズ以外のところから削ってください。

値段で選ぶなら、初期費用ではなく「自分が手を動かし続けられるか」で見る。手を動かせる人には木が安く、動かしたくない人にはプラが安い。これが実際のところです。

まな板の木とプラスチックはどっちを選ぶか

ここまでで判断の材料は出そろいました。あとは、あなたの台所の条件に当てはめるだけです。ここからは暮らし方ごとに、私ならどう選ぶかを具体的に書いていきます。ついでに、木とプラの二択から一度離れる選択肢も置いておきます。

ゴムまな板という第三の選択肢もある

木とプラスチックで延々と迷っている人に、私が最初に出す提案がこれです。ゴム、正確には合成ゴムのまな板という選択肢があります。プロの厨房でもよく使われている素材で、家庭にも降りてきました。

位置づけとしては、木とプラスチックの中間です。ゴムの弾力があるので刃当たりはプラスチックより穏やかで、水を吸わないので木のように乾かし方に神経を使う必要がありません。塩素系漂白剤も使えるものが多く、衛生面の管理はプラスチックと同じ感覚で回せます。傷がついたら表面を削って戻せる製品もあるので、寿命も長めです。

いいところばかり書きましたが、当然デメリットもあります。まず重い。同じサイズの樹脂まな板と比べて明らかにずっしりしていて、片手でひょいと持ち上げてフライパンに入れる、という使い方はしにくくなります。次に高い。通常サイズで6,000〜8,000円あたりが相場で、木粉を練り込んだ上位モデルになると1万円を超えます。そして熱に弱いので、食洗機に非対応の製品が多く、コンロのそばに置くのも避けたほうがいい。

似た見た目で「エラストマー」と書かれた製品も並んでいますが、これは別物です。エラストマーはゴムのような弾力を持った樹脂で、ゴムまな板より軽く安いかわりに、厚みや耐久性では及ばないものが多い。売り場で迷ったら、パッケージの素材表記を見てください。「合成ゴム」と書いてあるものと「熱可塑性エラストマー」と書いてあるものでは、重さも値段も想定寿命も変わってきます。

この「重い・高い・熱に弱い」の3点を許せるかどうかが分かれ目です。私の感覚だと、キッチンに作業台があって、まな板を出しっぱなしにできる家なら相性がいい。逆に、狭いシンクの上でまな板を出し入れしながら料理する家だと、重さが毎日ストレスになります。判断の材料はゴムまな板のデメリットを整理した記事に正直に書いたので、候補に入れるなら先に読んでおくと後悔が減ります。

一人暮らしはプラスチックが無難な理由

一人暮らしを始める人に相談されたら、私は迷わずプラスチックを勧めます。理由は3つあって、どれも料理の腕とは関係ありません。

ひとつめは置き場所です。ワンルームのキッチンは、シンクの横に20cmの平らな場所すらないことがあります。厚みのある木のまな板を洗って立てるスペースが確保できないと、洗ったあと平置きになり、その日から黒ずみとの戦いが始まります。薄くて軽いプラスチックなら、シンクのふちに立てかけるだけでも風が抜けます。

ふたつめは料理の頻度です。毎日自炊する人ばかりではありません。週に2、3回しか台所に立たない時期があると、木のまな板は使わない期間が長くなり、乾燥しすぎて割れたり反ったりします。木は使いながら手入れするのが前提の道具なので、使用頻度が低いほど扱いが難しくなる、という逆転が起きるんです。

みっつめは、最初のまな板でお金をかける必要がないことです。一人暮らしを始めた頃の私は、まな板に何を求めているのか自分でもわかっていませんでした。安いプラスチックを1年使って、「もう少し大きいほうがいい」「もう少し刃が沈むほうが気持ちいい」と不満がはっきりしてから次を選べば、その次で外しません。最初に一万円の木の板を買って、それが自分に合わなかったときのダメージのほうが大きい。

サイズだけは妥協しないでください。一人暮らしだからと小さい板を選ぶと、切ったものが載りきらず、まな板の上で食材が渋滞します。目安にしやすいのは、玉ねぎを1個分刻んで、それを端に寄せてもまだ切る場所が残るかどうかです。この余白があるかないかで、料理中のストレスがまるで変わります。

それと、プラスチックを選ぶときに一点だけ見ておきたいのが厚みです。100円台で売られている1〜2mmのシート状のものは、切るというより「切ったものを運ぶ」道具に近く、包丁を入れると下の天板の硬さがそのまま手に返ってきます。メインで使うつもりなら、最低でも5mm以上、できれば10mm前後の厚みがあるものを選んでください。値段はそれでも千円前後で収まりますし、この差は毎日の手首に効きます。

家族の台所は二枚の使い分けが答え

家族分を作る台所になると、話の前提が変わります。生肉や魚を扱う回数が増え、切るものの量も増える。この状況では、木かプラかを一枚で決めるより、二枚を使い分けるほうが実利が大きいと私は考えています。

根拠は先ほど引いた厚生労働省の家庭向けの案内です。「包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にそろえて、使い分けるとさらに安全です。」と明記されています。素材をどうするかより、生肉のあとに同じ面で生野菜を切らない仕組みを作るほうが、家族の食卓を守る効き目があります。

具体的な組み方はいくつかあります。私がいちばんすすめやすいのは、メインを木か好みの一枚にして、生肉・生魚用に安いプラスチックを1枚足す形です。生肉用のほうは漂白剤に浸けられるので衛生の管理が楽ですし、傷んだら気軽に交換できます。メインの板は生肉を載せないぶん傷みにくく、寿命も伸びます。

逆にすすめにくいのは、高い板を2枚そろえることです。収納も洗い場も倍になり、結局片方しか使わなくなります。使い分けは「同じグレードを2枚」ではなく「主役と作業用」で組むと続きます。

2枚に増やすと今度は置き場所の問題が出てきます。ここで挫折しないコツは、2枚目を「立てて乾かす場所が空いているサイズ」から逆算して選ぶことです。スタンドに2枚入らないなら、生肉用のほうを一回り小さくする。まな板の上で肉を切り分けるだけなら、メインほどの面積は要りません。洗い場の現実に合わせて選んだ2枚目は残りますが、理想で選んだ2枚目はシンク下に消えます。

使い分けをもっと手軽にやりたいなら、メインの板の上にまな板シートを敷いて生肉を切る、という方法もあります。板そのものが増えないので収納も洗い物も増えません。ただしシートは切っているうちにずれるので、包丁を強く引く切り方をする人には向きません。自分の切り方で試してから常用するか決めてください。

どっちを主役にするか迷ったら。家族の誰かが料理を代わることがあるなら、扱いに知識が要らないプラスチックかゴムを主役にしたほうが安全です。木は「乾かし方を知っている人」が管理しないと、いつの間にか黒ずみます。台所に立つ人が自分ひとりかどうかで、答えが変わります。

毎日料理して包丁も守るなら木が合う

ここまで現実的な条件ばかり書いてきましたが、それでも木を選ぶ価値がはっきりある人がいます。毎日台所に立って、包丁にもある程度こだわっている人です。

包丁の切れ味を鈍らせるいちばんの原因は、実は食材ではなくまな板です。食材より板のほうが硬いので、刃先は毎回まな板に当たって少しずつ摩耗していきます。だから受け止める面が柔らかいほど、研ぎと研ぎの間隔が伸びる。私は研ぎが好きなので苦にならないタイプですが、それでも柔らかい木の板に替えた時期は、明らかに研ぐ回数が減りました。

もうひとつ、これは効率とは関係のない話ですが、木の板で切ったときの音と手応えは料理の気分を変えます。刃が沈んで、静かにコトンと止まる。この感触が好きで木を使い続けている人は多いですし、私もその一人です。手入れの手間を「面倒」ではなく「道具の世話」と感じられるなら、木は長く付き合える相棒になります。

そして、まな板を柔らかくすると、今度は包丁側の粗が見えてきます。刃当たりが良くなったのに切れないなら、原因はまな板ではなく包丁です。切れ味が落ちたまま力任せに押していると、せっかくの木の板にも深い傷が入ります。

木のまな板の上に斜めに置いた家庭用の万能包丁

まな板と一緒に包丁も見直すなら
家庭で毎日使う一本としては、ミソノのモリブデン鋼 三徳庖丁 No.581(刃渡り18cm)が扱いやすい部類です。ステンレス系で錆びにくく、家庭用の中砥石でも素直に研げるので、柔らかいまな板の良さをそのまま受け取れます。
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包丁を替えるかどうかは別として、まな板を柔らかくしたら研ぎの頻度も一度見直してみてください。板がやさしくなったぶん、刃の状態がそのまま切れ味に出るようになります。

まな板の木とプラスチックのどっちで迷ったら

長くなったので、決め方だけもう一度並べます。まな板の木とプラスチックのどっちにするかは、次の順番で見ていくと片方に寄ります。

まず置き場所。洗ったまな板を立てて乾かせる場所が確保できないなら、木は選ばないほうがいいです。ここで脱落する家がいちばん多い。次に食洗機。毎日回していて、まな板もそこに入れたいなら、耐熱温度が表示されたプラスチックが正解です。木を入れると反りと割れのリスクを毎日背負うことになります。

その2つをクリアしたうえで、料理の頻度を見ます。ほぼ毎日台所に立つなら木の手入れは生活のリズムに乗ります。週に数回なら、使わない期間が長いぶん木は扱いにくくなるので、プラスチックかゴムのほうが素直です。最後に包丁です。切れ味を保ちたい、研ぐのも嫌いじゃない、というなら木の刃当たりは投資に見合います。

衛生面については、結局どちらとも言い切れないというのが正直なところでした。国の資料は大量調理の現場に向けて木を控えるよう書いていて、家庭を想定した研究には木のほうが有利だとするものもある。だからこそ、家庭で本当に効くのは素材選びではなく、生肉のあとに洗って熱湯をかけること、そして肉用と野菜用を分けることです。ここさえ守れば、木を選んでも過度に怖がる必要はありません。

キッチンの棚に並べて立てかけた木とプラスチックのまな板

迷ったままでいるより、安いプラスチックを一枚買って毎日使ってみるほうが早いこともあります。使っているうちに「もっと刃が沈んでほしい」「もっと大きいほうがいい」という不満がはっきりしてくる。その不満が出てから木に手を伸ばせば、たぶん外しません。台所の道具は、正解を先に当てるものではなく、使いながら自分に寄せていくものだと思っています。

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