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静岡で料理歴15年のコウスケです。包丁は50本以上を使ってきて、砥石も#400の荒砥から#8000の超仕上げまで台所に並んでいます。
包丁が切れなくなって「研ぎ方」を調べると、まず出てくるのは手順の解説です。角度は15度、押すときに力を入れて、カエリが出たら裏返して……。私も昔はその通りに読み進めて、読み終わったあとに気づきました。そもそも今日の自分は、砥石を買うべきなのか。お店に持っていったほうが早いんじゃないのか。手順より先に決めることが、いくつも残ったままだったんです。
この記事は、その「先に決めること」を順番に並べた案内板です。切れ味の見極めから、自分でやるか人に頼むかの分かれ目、道具の絞り込み、続け方、そして研いでも戻らないときの見切りまで。手順そのものは要点だけにとどめて、細かいところは包丁の種類ごとの記事にお任せします。読み終わるころには、あなたが次にやることが一つに決まっているはずです。
- そもそも今すぐ研ぐべきか、切れ味の見極め方
- 自分で研ぐか、お店に頼むかの分かれ目と費用感
- 家庭の包丁に本当に必要な道具はどれか
- 研いでも切れ味が戻らないときの原因と見切り方
包丁の研ぎ方より先に決めておきたいこと
研ぎの失敗の多くは、手つきではなく判断で起きます。研がなくていい包丁に砥石を当ててしまったり、砥石が向いていない人が砥石から始めてしまったり。ここでは、砥石を水に浸けるより前に決めておきたい三つのことを順番に片づけます。

今すぐ研ぐべきかを見分ける
最初の分かれ道は、研ぐか研がないかです。「なんとなく切れない気がする」で砥石を出すと、まだ使える刃を削って寿命を縮めるだけになります。判断は三つの合図でだいたいつきます。
ひとつめはトマトです。よく熟れたトマトに刃をそっと乗せて、力を入れずに手前に引いてみてください。皮に刃が乗ったまま滑る、あるいは皮がへこんでから裂けるように入るなら、刃先は丸まっています。すっと沈んで果肉がつぶれずに切れるなら、まだ研がなくて大丈夫です。ふたつめは紙。コピー用紙を垂れ下げて持ち、上から下へ刃を滑らせます。引っかかってくしゃっとなるようなら研ぎどきで、抵抗なく裂けていくなら合格です。
三つめが指ですが、これは一番危ないので方法を守ってください。刃に沿って指を滑らせるのは絶対にやめて、刃先に対して垂直に、指の腹をそっと当てて止めるだけにします。丸まった刃はつるっと当たり、生きている刃はわずかに引っかかります。感触が分かるまでは無理をせず、トマトと紙の二つで判断すれば十分です。
もうひとつ大事なのが、切れない原因が刃にあるとは限らないことです。かたい樹脂のまな板を使っていたり、刃先が細かく欠けていたり、柄にガタが出て力が逃げていたり。玉ねぎで目にしみるようになった、鶏皮が滑る、といった台所での実感も含めて、切れ味の落ち方には型があります。判定のやり方をもう少し丁寧に見たい方は包丁の切れ味チェック方法をまとめた記事を、そもそもなぜ落ちたのかを知りたい方は切れ味が落ちる原因を整理した記事を先に読んでください。原因が扱い方にあるなら、研ぐより先にそちらを直したほうが効きます。
・熟れたトマトの皮で刃が滑る
・垂らした紙が裂けずに引っかかる
・玉ねぎを切ると前より目にしみる
・鶏肉の皮が切れずに逃げる

自分で研ぐか人に頼むかで分かれる
研ぐと決めたら、次は自分の手でやるかどうかです。ここを飛ばして砥石を買い、結局そのまま引き出しの奥で眠らせてしまう。よく聞く話です。判断材料は費用、時間、そして失敗したときの痛みの三つ。
費用から見ていきます。お店に頼む場合、ホームセンターの研ぎサービスなら1本700円前後から2,000円くらいまでが目安で、刃物の専門店に出すと1,500〜3,000円ほどになります。ただし全店でやっているわけではなく、常設していない店のほうが多いのが実情です。一方、自分で研ぐなら中砥石が1枚あればよく、価格は数千円。何十回と使えるので、3回か4回出しに行く費用で元は取れます。この計算だけ見ると自分で研ぐ側に分がありますが、話はそう単純ではありません。
時間の感覚がまったく違うからです。お店に出せば、持っていって受け取りに行く往復が必要で、数日預けることもあります。自分で研げば、慣れれば1本5分で終わります。ただし最初の一本は、砥石を水に浸けて、台に固定して、片づけまで含めると20分は見ておいたほうがいい。この最初の20分を「面倒」と感じるか「悪くない時間」と感じるかで、続くかどうかが決まります。
最後が失敗のリスクです。正直に言うと、私は最初に刃をガタガタにしました。角度が保てず刃先が波打って、お気に入りの一本の切れ味を自分の手で台無しにして、本気で落ち込んだのを覚えています。だから、思い入れのある高価な包丁でいきなり練習しないでください。安い一本で慣れてから本命に進むか、大事な一本は最初のうちだけプロに任せるほうが賢い選択です。
頼む:思い入れのある一本しかない/刃が大きく欠けている/今週中に切れ味が必要/台所に道具を置く場所がない
自分でやる:包丁が複数ある/月に一度の手入れを続けたい/料理の時間そのものを楽しみたい
費用と判断の分かれ目をもっと具体的に比べたい方は研ぎを頼むか自分でやるかを比べた記事にまとめています。怪我が心配な方は自分で研ぐのは危ないのかを検証した記事を先に読んでおくと安心です。お店を探すなら、料金と対応店舗を並べたホームセンター10社の研ぎサービス比較と、関東で使いやすいジョイフル本田の研ぎサービスの記事が実際の値段の目安になります。

砥石と研ぎ器はどちらを選ぶか
自分でやると決めたら、道具は大きく二択です。砥石か、研ぎ器(シャープナー)か。この二つは上位版と廉価版の関係ではなく、やっていることがそもそも違います。ここを取り違えると、どちらを買っても不満が残ります。
砥石は、刃を削って新しい刃先を作り直す道具です。丸まった部分を落として鋭い角度を付け直すので、切れ味の戻り方も持ちも本格的。そのかわり角度を保つ技術がいるし、水に浸けて、台に固定して、あとで洗って乾かすという段取りが毎回ついてきます。研ぎ器は、溝に刃を数回すべらせるだけの道具です。刃先に細かい引っかかりを作って切れるようにするもので、角度を自分で作らなくていいぶん、誰がやっても同じ結果が出ます。かわりに切れ味の持ちは短めで、使うたびに少しずつ刃を削っていきます。
「研ぎ器はやめたほうがいい」という話を見かけることがありますが、あれは道具が悪いのではなく、期待の掛け違いです。砥石の切れ味を研ぎ器に求めるからがっかりするだけで、明日の朝までに切れるようにしたい、という用途なら研ぎ器のほうが正解です。私自身、平日は研ぎ器で軽く整えて、月に一度だけ砥石でしっかりリセットする、という併用に落ち着いています。
お金のかかり方も違います。砥石は一度買えば何十回と使えて、へこんだら面を直してまた使えるので、実質的には長く付き合う道具です。研ぎ器は溝の中の研磨材が少しずつ減っていくので、使い込めば買い替えが要ります。数百円の研ぎ器を何度も買い直すのか、数千円の砥石を一枚持っておくのか。長く続ける前提なら砥石のほうが安く上がりますが、続くかどうか分からない段階で高い道具から入る必要はありません。
置き場所も判断材料になります。砥石は水を使うので、シンクまわりに作業スペースが要ります。狭い台所で毎回まな板をどかして場所を作るなら、それ自体がやめる理由になりかねません。研ぎ器は引き出しに放り込んでおけるサイズなので、そこは圧倒的に楽です。私は結局、砥石を出しっぱなしにできる棚を作ったことで習慣になりました。道具の性能より、自分の台所に置けるかどうかで選んだほうが続きます。
どちらから入ってもかまいません。研ぎ器で切れ味の気持ちよさを知ってから砥石に進む順番も、まったく問題なし。両方の戻り方を比べた切れ味を自分で復活させる方法を比較した記事を読むと、自分がどちらに向いているか見当がつきます。研ぎ器そのものへの不安が強い方は研ぎ器はやめたほうがいいのかを検証した記事で、どんなときに向かないのかまで確認してみてください。
家庭なら中砥石一本で足りる
砥石でいくと決めた人が次にぶつかるのが、番手の壁です。#220、#1000、#3000、#8000と並んでいて、しかも「荒砥・中砥・仕上げの三本セット」がすすめられている。私も店頭で途方に暮れました。結論から言うと、家庭のステンレス三徳包丁を普段使いで研ぐなら、中砥の#1000が一枚あれば当分足ります。
理由は単純で、家庭の包丁が落とす切れ味の量が、#1000の守備範囲にきれいに収まるからです。荒砥(#500以下)は刃が大きく欠けたときに形を作り直すためのもので、普段の手入れで出番はありません。むしろ削りすぎて包丁を短命にします。仕上げ砥(#3000以上)は切り口の美しさを追う段階の道具で、刺身を引くようになってから考えれば十分。まずは#1000で刃を作れるようになることが先です。
もう一つだけ、一緒に考えておきたい道具があります。面直し用の修正砥石です。砥石は使うほど真ん中がへこみ、へこんだ面で研ぐと刃も丸くなって、いくら研いでも切れないという状態にはまります。鉛筆で格子を書いて、消えるまでこすれば平らに戻る、それだけの作業です。砥石の面直しのやり方をまとめた記事に、へこみの見極めから頻度まで書いてあります。番手の意味と、両面砥石を選ぶべきかどうかは砥石の番手の選び方の記事のほうが詳しいので、買う直前に読んでみてください。
シャプトン 刃の黒幕 オレンジ 中砥#1000
最初の一枚に迷ったらこれ。水に浸けおきせずに使い始められるので、思い立った日にサッと研げます。
- ◆ メーカー:シャプトン(日本)
- ◆ 粒度:#1000(中砥石)/オレンジ
- ◆ 特徴:浸水不要ですぐ研ぎ始められる
キング 両面砥石 KW-65 #1000/#6000
一枚で普段の研ぎと仕上げの両方をまかないたい人向け。昔から家庭で使われてきた定番です。
- ◆ メーカー:松永トイシ「キング」(日本)
- ◆ 粒度:#1000(中砥)/#6000(仕上げ)の両面
- ◆ 特徴:研ぎ汁が出やすく刃が付きやすい

研ぎ器で済ませていい包丁もある
ここまで砥石を中心に話してきましたが、そもそも砥石を当ててはいけない包丁があります。持っている一本がこれに当たるなら、迷う必要はありません。研ぎ器か、専用の道具の出番です。
まず波刃。パン切り包丁のギザギザは、砥石で平らに研いでしまうと波の形そのものが消えて、二度と戻りません。波刃には専用のシャープナーを使うか、片側だけを整えるやり方があります。次にセラミック包丁。素材が金属ではなく陶器に近く、普通の砥石より硬いので、包丁ではなく砥石のほうが削れていきます。ダイヤモンドを使った専用の研ぎ器が必要です。チタンの包丁も同じ理由でダイヤモンド系の道具が向きます。もう一つがコーティング加工の包丁。表面の加工が切れ味を担っているので、砥石で削ると加工ごと落ちてしまいます。
この四つに当てはまらない、ごく普通のステンレスの三徳や牛刀なら、砥石でも研ぎ器でも好きなほうでかまいません。判断に迷ったら、刃の縁がギザギザしていないか、表面に色や模様の加工がないかを確かめてください。それだけで、たいていは仕分けできます。
波刃の扱いはパン切り包丁の研ぎ方の記事に、コーティング包丁の手入れはスーパーストーンバリア包丁を検証した記事にまとめてあります。研ぎ器そのものの選び方は研ぎ器のおすすめと選び方の記事が具体的です。セラミック包丁そのものの弱点はセラミック包丁のデメリットをまとめた記事、チタン包丁はチタン包丁のデメリットを整理した記事で扱っています。安く試したいならダイソーの包丁研ぎを試した記事とニトリのシャープナーを比べた記事もあるので、数百円から始めてみるのも手です。
包丁の研ぎ方を続けるための実際の話
道具が決まったら、あとは実際にやってみるだけ。ただ、一度研げても続かなければ台所は元に戻ります。ここからは手順の要点と、続けるための現実的な工夫、そして「研いでも戻らない」ときの見切り方をまとめます。

研ぎの手順は5つの山だけ
細かいことを言い出すときりがないので、覚えるべき山を五つに絞ります。この五つさえ外さなければ、初回から刃は付きます。
山1・砥石を動かなくする。浸水が必要なタイプの砥石は、泡が出なくなるまで水に浸けます。10分前後が目安です。そして濡らした布巾の上に置くか、砥石台に固定する。研いでいる最中に砥石が動くのが一番危ないので、ここだけは手を抜かないでください。水をかけながら研ぐのは滑りをよくするためだけでなく、摩擦で刃先が熱を持つのを防ぐ意味もあります。
山2・角度は10円玉2枚分。刃を砥石に当てたとき、峰の下に10円玉が2枚入るくらいの隙間。だいたい15度です。この角度を最初から最後まで、表も裏も同じに保つ。研ぎで一番難しいのはここで、逆に言えばここさえできれば残りは作業です。
山3・押すときに力、引くときは抜く。刃先が砥石に食い込む方向に体重を乗せて、戻すときはすっと力を抜きます。刃全体を一度に研ごうとせず、刃元・真ん中・切っ先と三つに区切って進めると、研ぎムラが出ません。
山4・黒い研ぎ汁は流さない。出てくる黒いドロは砥泥といって、それ自体が研磨剤として働きます。きれいにしたくなりますが、そのまま研ぎ続けてください。乾いてきたら水を少し足す程度で十分です。
山5・カエリが出たら反対側へ。研いだ面の反対側の刃先に、指の腹をそっと当てると金属のめくれが感じられます。これがカエリで、刃先まで研げた証拠です。刃先全体に出たら裏返して同じだけ研ぎ、最後に新聞紙の上を数回すべらせてカエリを落として終わり。この仕上げを飛ばすと、使い始めてすぐにポロッと取れて切れ味が落ちます。
ステンレスの三徳包丁を実際に研ぐ流れは、一手ずつステンレス包丁の研ぎ方の記事に書いてあります。砥石を前にして手が止まったら、そちらを開きながら進めてください。

両刃と片刃で変わるのはどこか
研ぎ方の話でよく出てくる「両刃」と「片刃」。難しそうに聞こえますが、変わるのは一点だけです。両刃は角度を自分で作る、片刃は元からある角度に合わせる。これだけ覚えておけば混乱しません。
家庭にある包丁のほとんどは両刃です。三徳、牛刀、ペティナイフ。両刃で気をつけるのは左右のバランスで、片側だけ研ぎすぎると刃の中心がずれ、まっすぐ下ろしたつもりの大根が斜めに切れるようになります。表で30回研いだら裏も30回、と回数を数えるのが確実です。切っ先のカーブに来たら柄を少し持ち上げ、刃元では逆に下げると、丸みに沿って砥石が当たります。
自分の包丁がどちらか分からないときは、刃を真上から、刃先が自分に向くように立てて見てください。左右から同じ角度で削られてV字になっていれば両刃。片側だけが斜めに削られて、反対側がほぼ平らならこちらが片刃です。台所の明かりに刃先をかざすと、削られた面が光って境目がはっきりします。ちなみに片刃は右利き用と左利き用が別物で、左利きの方が右利き用を使うと切った断面が斜めに逃げます。研ぎ方の前に、そもそも自分の手に合っているかを確かめておくといいです。

片刃は出刃や柳刃といった和包丁に多い形で、刃が片側だけに付いています。こちらは自分で角度を作りません。表側にある「しのぎ筋」から刃先までの面を、砥石にぴたっと寝かせて当てるだけ。包丁が角度を教えてくれるので、慣れると両刃より迷いが少ないくらいです。
出刃はもう一つだけ注意があります。骨を叩き切る包丁なので、鋭さより丈夫さが優先。仕上げ砥でキンキンに研ぎ上げるより、中砥でしっかりした刃を付けるほうが長持ちします。小さな刃こぼれは中砥で根気よく研げば直りますが、大きく欠けたものは形から作り直す作業になるので、無理せずお店に出してください。

どのくらいの頻度で研げばいいか
「月1回」とよく言われます。出発点としてはちょうどよくて、毎日そこそこ料理をする家庭なら、砥石で月に一度が扱いやすいリズムです。私自身、平日夜の習慣として月に一度は必ず砥石を出しています。
ただ、これは使い方でかなり動きます。週末しか台所に立たない家庭、切るものが柔らかい食材中心の家庭なら、2〜3か月に一度でも困りません。逆に、かぼちゃや根菜をよく扱う、鶏肉を毎日さばく、という使い方なら月1回でも足りないことがあります。研ぎ器を使う場合は一度に削る量が少ないので、週1回くらいの頻度で軽く整えるのが本来の使い方。面倒だからと研ぎ器を月1回にしてしまうと、研ぎ器の良さがまるごと消えます。
逆に、研ぎすぎにも落とし穴があります。研ぐというのは金属を削る作業なので、必要もないのに毎週砥石を当てていれば、包丁はその分だけ確実に減ります。刃幅が細くなって、まな板に当たる感覚が変わってきたら削りすぎのサインです。切れているのに念のため研ぐ、という習慣はおすすめしません。前の項目で書いたトマトと紙の判定を挟んでから砥石を出せば、無駄に削る回数が減ります。
・毎日料理をする:砥石で月1回/研ぎ器なら週1回
・週末だけ料理する:2〜3か月に1回
・かたい根菜や肉を毎日切る:月1回でも足りないことがある
もう一つ、頻度より効く話があります。切れ味の落ち方は、研ぐ間隔より扱い方で決まる部分が大きいのです。かたい樹脂やガラスのまな板を使う、食洗機に入れる、シンクに放置する、冷凍のかたまりを切る。このあたりを一つ直すだけで、次に研ぐまでの期間が目に見えて延びます。私が藤次郎のDPコバルト三徳を長く使えているのも、木のまな板と手洗いを崩していないからだと思っています。
目安の考え方と、包丁の材質ごとの違いは包丁を研ぐ頻度をまとめた記事に整理しました。研ぐ回数そのものを減らしたいなら、切れ味を長持ちさせる習慣の記事を先に読むほうが近道です。

研ぎの時間と面倒の減らし方
続かない理由のほとんどは「面倒」です。技術ではありません。だから、面倒をどう削るかを先に決めておきます。
まず実際にかかる時間を知っておくと気が楽になります。砥石で三徳包丁を1本、慣れれば5分ほど。仕上げ砥まで通すと15分くらい。初めての一本は、浸水と片づけを入れて20分と割り切っておくと焦りません。研ぎ器なら30秒から1分です。1時間かかる作業だと思い込んでいる人が多いのですが、そんなにかかりません。
面倒を減らす工夫は三つあります。ひとつは、砥石を出しっぱなしにできる置き場所を作ること。シンク下の奥にしまうと、それだけで腰が重くなります。ふたつめは浸水のいらない砥石を選ぶこと。水に浸ける10分を待たなくていいだけで、思い立った日に研げます。みっつめは、まとめてやらないこと。3本を一気に研ぐより、料理のついでに1本だけ5分のほうが、結果的に続きます。
組み合わせで逃げる手もあります。普段は研ぎ器で30秒だけ整えて、月に一度の週末に砥石でリセットする。この形なら、平日に砥石を出す気力を用意しなくて済みます。研ぎ器で刃先を整え続けると少しずつ形が崩れていくので、そこを月一の砥石で戻す、という役割分担です。全部を砥石でやろうとして三か月ぶりに重い腰を上げるより、はるかに切れ味が安定します。
それと、これは効率とは別の話ですが。砥石に向かっているときのシャッ、シャッという音を聞いていると、頭のなかが静かになっていく感覚があります。私はこの感覚が気に入って研ぎが習慣になりました。義務としてやると面倒ですが、一日の終わりの時間として捉えると、意外と続きます。研ぎが気持ちの整理になる話にその経緯を書きました。
道具別の所要時間をきちんと知りたい方は包丁研ぎにかかる時間をまとめた記事を、それでもどうしても面倒だという方は研ぎが面倒な人向けの記事で回数を減らす方向の選択肢も見てみてください。研がないという選び方も、選び方のうちです。
研いでも切れ味が戻らないとき
手順どおりにやったのに切れない。ここでほとんどの人が心を折られます。でも原因はだいたい決まっているので、上から順に潰していけば見当がつきます。
一番多いのがカエリの出し不足です。刃先までは削れておらず、その少し手前だけを削っている状態。研いだ面の反対側にめくれが出るまで、思っているより長く研いでください。二番目が角度のブレ。途中で寝てしまうと刃先ではなく側面を削ることになり、いくら時間をかけても鋭くなりません。三番目が砥石のへこみです。真ん中がくぼんだ砥石で研ぐと刃が丸くなり、削っているのに切れないという状態にはまります。鉛筆で格子を引いて確かめてみてください。
もうひとつ、よくあるのが「研いだ直後は切れるのに、二、三回使うと落ちる」というケースです。これはたいてい、カエリが落としきれていません。刃先にめくれが残ったまま使い始めると、最初の数回でポロッと取れて、その下から丸い面が出てきます。新聞紙の上を数回すべらせるだけの作業ですが、ここを飛ばすと研いだ意味が半分になります。逆に、角度を鋭くしすぎた場合も持ちが悪くなります。薄く鋭い刃ほどよく切れますが、そのぶん欠けやすい。家庭の包丁なら、15度を守って必要以上に寝かせないほうが結果的に長持ちします。
ここまで潰しても戻らないなら、包丁側の問題を疑います。刃先に細かい欠けが並んでいる、刃が減って厚みだけが残っている、柄にガタが出て力が逃げている。刃を研ぎ減らして峰の厚みだけが残った包丁は、家庭の中砥では戻せません。この段階に来たら、直すか買い替えるかの判断に移ったほうがいい。
1. カエリは刃先全体に出ているか
2. 途中で角度が寝ていないか
3. 砥石の面は平らか
4. 刃こぼれ・厚み・柄のガタはないか
原因ごとの対処は研いでも切れない理由を整理した記事が詳しいです。買い替えとの分かれ目を費用で考えたい方は包丁の寿命をまとめた記事、直して使いたい方は包丁の修理をどこに頼むかの記事と柄の交換の記事を見てください。柄のガタは自分でも直せることがあります。
まとめ:包丁の研ぎ方は順番で決まる
最後に、この記事でたどった順番をもう一度並べておきます。うまく研げないときは、手つきではなく、この順番のどこかを飛ばしていることが多いです。
- 研ぐか決める:トマトと紙で確かめる。切れない原因が扱い方なら、そちらを先に直す
- 誰がやるか決める:思い入れのある一本しかないなら、最初はお店に出すのも正解
- 道具を決める:本格的な切れ味なら砥石、手軽さなら研ぎ器。併用でもいい
- 砥石なら#1000を一枚:荒砥と仕上げ砥は必要になってから
- 手順は五つの山だけ:固定・15度・押して抜く・砥泥は流さない・カエリを取る
- 続け方を決める:月1回、1本5分。まとめてやらない
次に開くページも、答えによって決まります。まだ研ぐかどうか迷っているなら切れ味の確かめ方の記事へ。人に頼む方向に傾いたなら、料金の比較へ。砥石を買うと決めたなら番手の記事へ。砥石を前にして手が止まったなら、ステンレス包丁の研ぎ方を開きながら一手ずつ進めてください。この記事は、その分かれ道までを案内するための場所です。全部を読む必要はありません。
私が最初に砥石を買ったときは、いきなり研ぎ始めて刃を波打たせました。あのとき順番を知っていれば、練習用の安い包丁から始めていたはずです。遠回りをしたぶん言えることがあって、研ぎは技術より段取りで決まります。
それと、研がないという結論に落ち着いても構いません。手入れの続かない家庭はいくらでもありますし、切れなくなったら千円前後でお店に出す、という付き合い方も立派な答えです。大事なのは、切れない包丁を我慢して使い続けないこと。無理に力を入れて切ろうとするほど手元が滑って、怪我につながります。
そして、包丁を研ぐ時間そのものも、悪くないものです。切れるようになった包丁でトマトを切ると、断面がつぶれずに光っているのが見えます。あの瞬間だけで、5分の手間は釣り合います。次に台所に立つとき、まずはトマトを一つ切ってみてください。そこからで大丈夫です。

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